議論中の風景
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ロジックと直感は相反するものではない

編集部:今回伺ったお話で一番印象に残ったのは、野球のことを全く知らないけれど、東北楽天ゴールデンイーグルスの経営を立て直した人がいるという話でした。誰も気付かないことに気付ける能力があったということですよね。それこそ、まさに直感でしょう。そう考えると、コンサルファームが採用人数を増やしていろいろなタイプの人材を取り込んでいるというのはどうなんでしょうか。直感と逆の方向に行っちゃうんじゃないかという気もします。

安田:今日は右脳と左脳、ロジックと直感という対比で議論が進みましたが、それらの食い合わせが悪いのかというと果たしてどうなんだろう。

 暗黙知を形式知化し見える化するプロセスで考えると、ロジックであれ、デザインであれ、似たようなことをやっているんじゃないかと思います。暗黙知のままでは組織の中で共有されにくい。何らかの形で見える化しようとするわけですが、ロジックを使う時は、みんなが理解できるようなフレームワークに当てはめる。

 デザインの場合は、見えるものをぽんと出す。アウトプットの仕方はかなり違うけれど、必ずしも相反するものではない気がします。見える化のチャネルとしてこれまではロジカルな部分ばかりが強調されていたけれど、そこに、ある種の直感も入り込んだデザインを持ってくるということで。

入山:ロジカルシンキングとデザインシンキングの違いって、哲学的に言うと還元主義と全体主義の違いだと思います。デザインシンキングが求められている背景は、還元主義とは真逆の方向性が必要だということでしょう。

素粒子論を突き詰めても宇宙は説明できない……

 近代の科学はだいたい分解していく方向です。ミクロ経済もそう。バラバラにして細かいメカニズムを把握しようとする。問題は、それをわっと組み合わせた時、全体としてまるっとひとつのパッケージになるのかというと、必ずしもそうではないこと。例えば物理の世界で、素粒子論を突き詰めても宇宙のメカニズムは説明できないのと同じで。

編集部:なるほど。以前取材した時、立正大学教授の吉川洋先生がマクロ経済とミクロ経済の違いについて、同じようなお話をされていたのを思い出しました。ミクロ経済を突き詰めてマクロ経済を理解しようとするのは間違っていると。

安田:はい、吉川先生は今のマクロ経済学のあり方に非常に一貫して批判的なスタンスですね。「物理学を見よ」というわけです。物理学でのミクロの理論は量子力学で、個別の粒子を分析します。でも粒子の振る舞いを細かく分析できても、もう少し大きな物体の動きにはほとんど役に立たない。

 例えば、多数の気体分⼦が集まった気体の振る舞いを知るには統計⼒学が必要です。実際、熱⼒学などは、マスを扱う統計⼒学をベースに発展してきました。

 マスを扱う統計⼒学的な発想を⼊れなきゃいけない、という立場で吉川先生はずっと研究されています。今のところ、このアプローチは経済学界では主流になっていませんけれども。

 経済学に関しても、ミクロレベルの家計の行動とか企業の競争といったものは、ミクロ経済学とかゲーム理論を使って分析すればいいのですが、何億人も集まったマクロの経済を分析するには、マスを扱う統計力学的な発想を入れなきゃいけないと考えてずっと研究しています。異端とされていますけれどね。

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