○か×か。かなり玉虫色の展開に
○か×か。かなり玉虫色の展開に

「たんすの肥やし」と批判受け実行まで担うように

入山:では、次に御立さんに説明していただきましょう。御立さんは「○→×→○」と時系列になっていましたが。

<span class="fontBold">入山章栄(いりやま・あきえ)<br> 早稲田大学ビジネススクール准教授</span><br> 1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大経営大学院で博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て2013年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール准教授

1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大経営大学院で博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て2013年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。

御立:BCGの成り立ちからさかのぼって説明させてもらいます。米国でBCGができたのは1963年のことです。コンサルファームとしては管理会計の仕組みをつくったブーズ・アレン・ハミルトン、組織論を構築したマッキンゼー・アンド・カンパニーなどが既に活躍していました。BCG創業者のブルース・ヘンダーソンは、新規プレーヤーとして他社がやっていないニッチ市場を探そうと、軍事論から戦略という言葉を持ち込みました。

 後に、経済学博士のマイケル・ポーター教授が、経済学の「産業組織論」の視点から、産業構造による超過利潤の違いに注目して研究を進めて経営戦略論を学問分野として成立させてくれましたが、それまで、創業者たちはビジネススクールに戦略の授業をつくってほしいとロビーイングをしていたんですよ。

入山:へえ、知らなかった。面白いですね。

御立:そうやってBCGは経営戦略を立てることを生業としてきました。創業から3年後の66年、ニューヨークよりもロンドンよりも早く、BCGの2番目の拠点として東京にオフィスができました。その時代の日本に、データを基に考えるというウエスタンシンキングのフレームワークを持ち込んだのは非常に価値あることだったと思います。「プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)」※注2とか、「エクスペリエンスカーブ(経験曲線)」※注3とか、今考えればシンプルなツールですが、戦後、第1世代、第2世代の経営者で、そういうフレームワークを学び、ものの見方が変わったという人は結構いました。

※注2:プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)
経営資源を最適に配分することを目的にBCGが提唱した手法。縦軸に市場成長率を、横軸に市場占有率をとり、自社の事業や商品・サービスがどこに位置するかを分析する。「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類し、事業の方向性と経営資源配分のウエート付けをする。
※注3:エクスペリエンスカーブ(経験曲線)
BCGが発見した法則。ある製品の累積生産量が増加すると、単位当たりの生産コストが一定割合で低下していくこと。

入山:それが「○」の時期ですね。

御立:そう。ただ、70年代に入ると問題も指摘されるようになりました。戦略をつくるだけだとただの紙でしかない。実行するか否かは経営者次第。イケてる経営者ならいいけれど、そうじゃなければたんすの肥やしになるだけだと。

 そういう「×」の時期を経て、戦略をつくるだけではなく、組織のケーパビリティーや実行力を踏まえて、落とし込むところまでしないと世の中の役に立たないと悟ったんです。それでハイエンドの戦略から実行のところまで担うようになって再び「○」の時期がきたんですね。

 戦略をカスタマイズしようと思ったら、相当現場にベタベタ行かないとダメなんです。例えば、私の仲間でゴキブリ殺虫剤の研究開発にかかわった人間がいて。メーカーの研究開発役員と一緒に、ものすごくたくさんゴキブリ殺虫剤を買うユーザーの家まで調査に行っていました。田舎町のトレーラーハウスに住んでるおばあちゃんだったんですけれど、彼女は、ゴキブリが出るとシューッと2分ぐらい殺虫剤をかけ続けていたんです。本当はものの10秒で死ぬのに、「まだ脚が動いてる」と言って。それを見て、私の仲間はひらめいた。「このおばあちゃんはゴキブリを殺す機能ではなく、ゴキブリが動かなくなる機能を買っているんだ」と。

安田:10秒で死ぬんでしょうけれど、しばらく脚がピクピク動くのが気持ち悪い。早く動きを止めて気持ち悪さを解消してほしいんですね。

御立:そうなんです。それでメーカーは麻痺剤を入れたゴキブリ殺虫剤をつくりました。そうすると、死ぬ前に麻痺して動かなくなるから。この殺虫剤は爆発的に売れました。これぐらい現場まで行かないと、「アハ体験」と呼ばれるようなひらめきは生まれないですよ。こうして企業も戦略ファームも成長しました。

入山:だから「○→×→○」なんですね。となるとこの「?」はどういう意味でしょうか。

御立:「?」はこれから先の話です。

入山:なるほど。では、この後、3番目の議題で未来のコンサルファームについて議論する予定なので、その時に合わせて話していただきましょう。

次ページ コンサルは経営者の能力を低下させた?