エンジニアにならなくても学ぶ必要があるワケ
それでも上野社長は小学校からプログラミングを学ぶこと自体には賛同しています。改めてその意味は。
上野氏:一言で、これからの時代に必要だから。4回目の産業革命が始まっている中で、圧倒的に重要なのはITのスキル。基礎といってもいいかもしれません。
まず小学生からプログラミングに接することで、抵抗感がなくなります。ITやプログラミングをごく自然なものとして捉えられます。グローバル社会の中で、英語を実際にビジネスで使わない人も教養として英語を学ぶべきだという考え方が浸透してきましたが、それはプログラミングにも当てはまると考えています。
つまり、将来エンジニアになるかならないかにかかわらず、学ぶ必要があると。
上野氏:はい。我々のプログラミングスクールでも、エンジニアになりたいと考えている子どもは半分以下です。それでは、なぜ学ばなければならないか。これは実例ですが、我々の生徒でスポーツ選手のトレーナーになりたい子どもがいます。彼はトレーニングメニューを考えるに当たって、過去のデータを使って今何が適切なトレーニングなのかをはじき出すアプリケーションを考えています。こういう発想が当たり前に出てくるようになるんです。
別の例では、映画や小説などに興味がある女の子が、ヒット映画の脚本をプログラミングで読み込み、感情曲線をはじき出して、ヒット作品に何か共通する傾向があるかどうかを分析しています。そこからヒットする物語のヒントを得ようとしているのです。従来の映画監督やプロデューサーからは出てこない発想でしょう。
自分の中で発想のよりどころが増える。
上野氏:そうです。テクノロジーが発想手段や問題解決手段として身に付いていくんです。
学ばせる親の側で気を付けるべき点は。
上野氏:必修化が始まるといっても、学校でできるのはせいぜい先ほど説明した程度。関心を持った子どもたちを我々のような民間がサポートする。そういう状況になっていくのだと思います。
その上で、親にできるのは「環境」を用意してあげることだと思います。「あれをやれ、これをやれ」というのではなく、多様な選択肢を用意して、子どもたちに楽しいことを自由にやらせる。楽しくないと続かないですから。
必修化で注目を集めたことからプログラミングスクールも急増しています。
上野氏:我々が2013年にプログラミングスクールを事業化した頃は数えるほどしか存在しませんでしたが、現在は全国で数千〜1万教室程度まで増えています。少子化の中で数少ない教育関連の成長領域でしょう。
ロボットをメインとするスクール、ソフトウエアの中でもゲーム、スマホアプリに主眼を置くスクールなど内容も多様ですし、何よりスクールが目指すゴールの設定が全く違います。日本代表を狙っているのか、単にフルマラソンを完走したいのか、それとも痩せたいのか。それくらい違うんです。検討している場合は初めに分野やレベル感を押さえたほうがいい。
CA Tech Kidsの特徴は?
上野氏:先ほどの例で言えば、我々は日本代表になれる人材をゴールとして設定しています。テクノロジーを手段として身に付け、自分のやりたいことを自分の技術で実現することに主眼を置いています。先日、香港で開かれた国際アプリ開発コンテストでも、我々の生徒が日本代表として参加しました。子どもにも分かるように丁寧に教えますが、子ども扱いはしません。高いレベルを常に要求しています。
2013年にこの分野に参入し、学習法のノウハウもかなりたまってきました。このレベルの生徒にどの程度の内容をどうやって教えるか。この数年で参入した事業者が試行錯誤していることを我々は1周早く経験しています。その先行優位性はまだ残っています。
生徒数の推移は。
上野氏:2013年から数年間は毎年約3倍ずつに急増しました。需要が増え始めたのに供給側が足りず、当社に集中したような形です。生徒数は最大で1200人程度にまで増えました。
ただ、当社は2017年に事業方針を変えました。ビジネスモデルを精査する中で多店舗展開は望ましくないと判断し、いくつかのスクールを閉鎖し、コースも絞り込みました。赤字を縮小するという目的と同時に、より「質」を重視した方向に舵(かじ)を切った。そこから生徒数は横ばいで推移しています。
2018年、初めて黒字化し、ようやく次の章に進めるという状況です。
ビジネスとして今後の展開策は?
上野氏:子ども向けのオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」の提供を2018年2月に開始しました。先ほど申し上げた通りスクールとしてのノウハウがたまってきたので、それをeラーニングサービスとして外販していきます。主たる顧客は民間の学習塾。そこでビジネスのスケーラビリティーを確保していきます。
アジアのアプリ開発コンテストで日本人が小学生部門で1位を受賞しました。「日本は遅れている」という批判もありますが、どう受け止めていますか。
上野氏:公教育など国全体として見ると確かに遅れていますが、きちんとした学びを機会を得たトップ層は全く世界に引けを取らないと考えています。
個人的には、プログラミングを学ぶのは早ければ早いほうがいいとは考えていません。小学校中学年以上が望ましいと思います。プログラミングには抽象的な概念が存在します。例えば「変数」や「条件分離」ですね。こうした概念自体を知らない状態で学ぼうとすると非常に効率が悪く、子どもの貴重な時間を無駄にしかねません。
語学や体育は幼い頃からきちんと取り組むことに意味がありますが、プログラミングはそうではありません。概念が理解できるようになり、その後で「武器」として身に付けていくほうが効率的だし効果があると考えています。