「プログラミング」という教科ができるわけではない

上野社長は文部科学省のプログラミング教育に関する有識者会議で委員を務め、2016年の「未来投資に向けた官民対話」では「小学校からの必修化」を提言されました。2020年から始まる必修化についてどう評価されていますか。

上野朝大・CA Tech Kids社長(以下、上野氏):「最低限のゴールは達成した」という認識です。本当は教科になるのが望ましかった。ただ、教科書に「プログラミング」という言葉が入ったのは喜ばしいことだと考えています。必修化で国民の関心は非常に高まりました。

<span class="fontBold">上野朝大氏</span><br />CA Tech Kids代表取締役社長。2010年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告営業、マーケティング事業部長、アプリプロデューサーを経て、2013年5月サイバーエージェントグループの子会社としてCA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。事業の立ち上げ、経営を行う一方で、一般社団法人新経済連盟  教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者の他、文科省プログラミング教育関連各種委員も務め、プログラミング教育の普及、推進に尽力する。(写真:竹井 俊晴)
上野朝大氏
CA Tech Kids代表取締役社長。2010年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告営業、マーケティング事業部長、アプリプロデューサーを経て、2013年5月サイバーエージェントグループの子会社としてCA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。事業の立ち上げ、経営を行う一方で、一般社団法人新経済連盟 教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者の他、文科省プログラミング教育関連各種委員も務め、プログラミング教育の普及、推進に尽力する。(写真:竹井 俊晴)

必修化はされるが、「教科」として個別の授業があるわけではない。これを誤解されている方も多いかもしれません。

上野氏:そうですね。それぞれの教科で「プログラミング的思考」を学ぶという内容になっています。「プログラミング」という個別の授業ではなく、算数や理科などそれぞれの授業でプログラミングに関する考え方を教えていく。いくつかの例は示されていますが、具体的な内容はそれぞれの教師に委ねられています。どの単元でどのように実施するかも学校や教員次第。丸投げに近いような状態ですね。

どのような授業が想定されますか?

上野氏:具体的に示されている例で言うと、乾電池を直列や並列でつないで豆電球を光らせるといった、リアルで実験していた事例をプログラミングで再現するようなものや、分度器や定規を使わずにプログラミングで三角形を作図するようなものが挙げられます。

 ただ、既に「これがプログラミングなのか」という授業も現れ始めています。例えば、プログラミングには上から順に計算していく「順次実行」や同じ計算を続ける「繰り返し計算」などの概念がありますが、それを「体育」の授業で取り入れるといったものです。

体育で?

上野氏:マット運動で「前転」「後転」などを一つの計算と捉え、それを並び替えて“順次実行”したり”繰り返し”たりするような授業です。「何をやっているんだ」という印象ですが、これもアリなんです。まさに「何でもアリ」という状況ですね。

 こんなことをやっているのは日本だけで、諸外国ではきちんとアルゴリズムを学び、プログラミングを技術として習得させています。コンピューターサイエンスに真正面から取り組んでいるのです。

 こういう状況になっているのは、先ほど申し上げた「プログラミング的思考」という言葉に諸悪の根源があると考えています。

プログラミング的思考とは? 文科省の資料では「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合せが必要であり、一つひとつの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近付くのか、といったことを論理的に考えていく力」と定義されています。

上野氏:書かれている通りで、あくまで「考え方」に過ぎません。2020年からの必修化はプログラミングの「スキル」を学ぶのではなく、「考え方」を学ぶことに主眼が置かれています。

論理を学ぶなら国語や算数で十分なのでは?

上野氏:おっしゃる通りです。論理を学ぶなら私は国語が最適だと思っています。プログラミングも論理的ではないと成立しませんが、それは言語全般に言えることです。論理は国語できちんと教えればいい。

 うがった見方かもしれませんが、私はこの「プログラミング的思考」という言葉を、必修化に関する様々な批判をかわすために入れたのではないかと推察しています。大前提として「小学校は職務教育をする場所ではない」と。だからプログラミングを技術としてではなく思考方法の一つとして学ぶ、という論理ですね。そのため私たちはこの「プログラミング的思考」を重視していません。

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