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RaiseではJR東日本の担当者をメンターに迎え、「鉄道がある暮らしの広め方」をテーマに議論を進めています。日本が誇る鉄道の技術や運行管理のノウハウをどうやって海外で生かしていくのか。そもそも、なぜ、海外で事業をするのか。理解を深めるためにJR東日本の担当者に質問をぶつけてみました。

(聞き手は藤中潤)

JR東日本の吉浦壯氏(左)と小池遼馬氏

国内で事業を展開しているイメージが強いJR東日本ですが、海外では具体的にどのような事業を手掛けているのですか。

吉浦壯・国際事業本部企画・国際交流部門担当(以下、吉浦氏):主にヨーロッパとアジアで4つのプロジェクトを進めています。

 まずは英国の「ウェストミッドランズ」と呼ばれる鉄道網の運営。英国では鉄道の運行部門と線路などのインフラ管理部門を分離して運営する「上下分離制」が導入されていて、地域ごとに分けられた約20の列車運行会社の運営権を入札によって決めています。ウェストミッドランズは、ロンドンを起点にバーミンガムやリバプールを結ぶ約900キロの鉄道網で、JR東日本は三井物産などと共に2017年12月から運営に携わっています。

 私たちが海外で鉄道オペレーションに参画するのは、これが初めてで、新車両の導入による輸送力増強や、ロンドンやバーミンガム周辺での通勤混雑緩和、サービスの品質向上などが求められています。まだ参画して1年あまりですが、日本国内で培ってきた質の高いサービスを導入できるよう模索してるところです。

アジアでの取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。

吉浦氏:東南アジアではタイ・バンコクの「パープルライン」という2016年に開業したばかりの鉄道に、グループ会社の総合車両製作所が製造する新型車両を21編成63両納入しています。現在のところ大きな不具合はなく、順調に運行しています。

 併せて、現地に新会社を設立して、鉄道車両や信号、軌道、運賃収受システムなどのメンテナンス業務も行っています。メンテナンスクルーのほとんどは現地の方ですが、JR東日本グループからもマネジャーなどの人材を送っていて、私たちの高いメンテナンス技術を提供しています。

 似た形になりますが、インドネシアで、日本で使命を終えた中古車両を譲渡してメンテナンスなどの技術支援をしています。ほかにも、インド政府が23年の開業を目指している高速鉄道プロジェクトに参画し、日本で新幹線を運行してきた経験からサポートを行っています。

そもそも、なぜ海外で事業を始めたのですか。

吉浦氏:国内の人口減少が今後進んでいく中で、私たちが持っている鉄道のオペレーションやメンテナンスの技術を生かせる市場が世界にはあると考えているからです。ただ、念頭に置いていることがあります。それは国外の鉄道事業の発展に寄与するということ。そのうえでビジネスモデルを作り、長期的に持続可能な経営をしていこうと考えています。

やはり、ビジネスとして成り立たせることが大事だと。

吉浦氏:海外進出するにあたっては、投資を回収できないリスク、具体的に言えば政治変動やライバルの存在といったリスクが付きまといます。あらゆることを加味したベストシナリオと、撤退まで見越したワーストシナリオを描くことが大切。何でもかんでもやるというわけではなくて、最終的に成り立つかどうかを考えて判断しています。

海外事業における難しさはありますか。

小池遼馬・国際事業本部企画・国際交流部門担当(以下、小池氏):1つは規格の問題です。海外で日本の鉄道システムを導入する際には、日本で使用しているシステムをそのまま取り入れる場合もありますが、一般的には現地で採用されている規格に合わせた改造や、その規格に合っていることの証明が求められます。タイのパープルラインでは、現地で採用されている規格に沿った車両を製造しました。今後、日本の鉄道システムを輸出する場合にも規格の壁をどう乗り越えるかが重要になってきますので、社内でも検討を進めているところです。

 また、キャリアアップを目的とした転職が活発な地域もあり、現地で採用した人材がほかの企業に移籍することも珍しくありません。現地の方からすると、日本企業と仕事をすることが今後のステップアップにつながるという考えもあるのかもしれませんが、私たちも優秀な人材を採用し長く勤めてもらう必要があります。

 JR東日本社内の人材育成も今まで以上に必要になってきます。これまでは日本国内で成長してきた会社なので、海外に出ていくノウハウがまだ少ない。研修などの教育プログラムも実施していますが、いろいろな事業に参画していく中で磨きをかけていく必要があると考えています。

■変更履歴
写真中の吉浦壯氏の位置は(右)ではなく(左)でした。写真説明は修正済みです。 [2019/4/19 10:51]