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 日経ビジネスRaiseでは「未来の球場を考えよう」をテーマに議論しています。メンターを務めるのは、プロ野球選手からビジネスパーソンへ転じた江尻慎太郎氏。2014年シーズン限りで引退するまで13年間、福岡ソフトバンクホークス他2球団でプレーしました。引退後はソフトバンクのグループ会社でデジタルマーケティング商材の営業担当となり、現在は福岡ソフトバンクホークスで広報を担当しています。江尻氏に、福岡ソフトバンクホークスが目指す球場や、江尻氏自身のキャリアについて聞きました。(聞き手は西雄大)

福岡ソフトバンクホークスで広報を担当する江尻慎太郎氏。福岡ソフトバンクホークスなど3球団でプレーした。

日経ビジネスRaiseの学生向けコーナー「オンラインインターン」では、「未来の球場を考えよう」をテーマに議論しています。まずは、プロ野球の現状を教えてください。

江尻慎太郎・広報室広報企画課兼球団広報課(以下、江尻氏):私は1977年生まれなのですが、地上波のゴールデンタイムにプロ野球の試合が生中継されている時代に育ちました。マスメディアがプロ野球人気を当然のように後押しする時代。同級生の多くも野球に親しみ、学校では前日の試合の話で盛り上がっていました。ですが、現在の状況は少し異なるかもしれません。野球中継は地上波からBS・CS放送中心になり、最近ではスマートフォンでの視聴が増えています。プロ野球に限ったことではないかもしれませんが、自宅で自然に観てもらえていた時代とは違い、選んで観てもらわないといけない時代なのだと思います。

 2004年の球界再編を機に、各球団は地域に根ざしたチームへと変身を図りました。住民と選手が直接交流することで、テレビ画面を超えたリアルでの接点も作ろうとしたのです。2002年に私が入団した北海道日本ハムファイターズでは、全道に選手が散らばりファンと交流する機会がありました。福岡ソフトバンクホークスでも現在、オフシーズンに九州・山口エリアの全10カ所で同時に野球教室を開催して地域住民との交流を図っています。そういった形で地域を大切にしながら、ファン層の拡大を図り、男性だけでなく、女性やファミリーにも野球に関心を持ってもらうよう努めてきました。次の課題の1つは、このようなリアルの場での施策に合わせ、メディアを介してどのようにプロモーションを打っていくかだと思います。各球団は次の一手を探しているのではないでしょうか。

 目まぐるしく変わるメディアと消費者の接点を追いかけることは、野球に限らずサービス供給者の課題です 。 元野球人として、野球自体の魅力は決して落ちていないと思います。むしろ選手の能力は高くなり、海を超えて活躍するような選手も多くいます。魅力あるコンテンツをいかに伝えていくか。人々とのネットワーク構築手腕が問われる時代に入っています。

福岡ソフトバンクホークスは、どのような戦略で新しい時代に臨もうとしているのですか。

江尻氏:強いチームを作り、野球自体の魅力を高めるのはもちろんのこと、野球以外の領域へのチャレンジと、それによる新たなファン層の獲得に注力していきます。

球団なのに、野球以外のチャレンジをするのですか。

江尻氏:野球を中心としたエンターテイメントという考え方です。日本だと、野球場は「野球を見る場所」という印象が強いですよね。一方アメリカでは、球場を中心として街全体がテーマパークのようになっており、野球ファンでなくても楽しめる仕掛けがたくさん施されており、試合の前から楽しめると聞きます 。まさに「野球を中心としたエンターテイメント施設」と言えるのではないでしょうか。

 日本の球場もコンサートなど野球以外のコンテンツは提供しています。しかし当然のことですが、動員率を維持する施策が主となります。福岡ソフトバンクホークスでは、動員維持のために複数のイベントを実施し、毎年座席や球場のリニューアル、企画チケットを充実させ、また会員獲得にも注力し、稼働率は右肩上がりを続けています。それでも平日は、よりお客様に適正価格でチケットを購入していただく環境を提供し、稼働率を上げるためダイナミックプライシングなども積極的に実施しています。福岡ソフトバンクホークスは球場を保有している球団なので、企業収益体制の下支えのため、野球非稼働日の収益事業を新たな企画を含め積極的に実施していくことが球団事業の拡大のために重要であると、私も日々教えられています。そのための取り組みとして、例えば これまでにオールナイトのクラブイベント「ミュージックサーカス」や、ヤフオクドーム前の海に海上遊具を浮かべてエンターテイメントスポット化する「サマースプラッシュ」を開催したりしました。さらに2020年春の開業を目指し、ヤフオクドーム直結のエンターテイメントビルを建設中です 。高さ40メートル、全長100メートルの滑り台もでき、ビルの外壁を回るように滑り降りることができます。他にもMLBカフェや昨年までヤフオクドーム内にあった「王貞治ベースボールミュージアム」もビル内に開業予定です。

新たなファンにはどういった層を想定していますか。話を聞いていると、子どものいる家庭がターゲットになりそうです。

江尻氏:もちろん子どもたちや、その家族もターゲットです。幼いうちから球場に慣れ親しんでもらうことで、野球ファンになってもらいたいです。野球離れが進む子どもたちを今以上に取り込んでいくことは野球界にとって必須であり、かつ世界一を目指す球団として、インバウンドへのアプローチを推進していく使命があると考えています。2018年にはインバウンド推進室を開設。 今後は国内だけでなく、世界にも魅力を伝えていきたいです。