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日経ビジネスRaiseでは、「10年後の駅の役割を考えよう」をテーマに議論を進めています。2030年をめどに山手線沿線の再開発を進めるJR東日本に、未来の山手線の駅について聞きました。

(聞き手は白井咲貴)

事業創造本部山手線プロジェクトの一木典子氏(左)と道正俊明氏

駅の役割は時代とともに変化してきました。かつては交通の拠点でしたが、現在では駅ビルで買い物や食事も楽しめます。JR東日本は「山手線プロジェクト」として2030年頃までに山手線沿線一帯の再開発を進める予定ですが、その頃の駅の役割をどのように想定しているのでしょうか。

道正俊明・事業創造本部山手線プロジェクト担当(以下、道正氏):より街に開かれた存在であってほしいと思います。今まで、駅ビル建設といったハードの開発が中心でした。ですが、今後はソフトの開発を強化していきたいと思います。

具体的には。

道正氏:現在私は「山手線プロジェクト」に携わっていますが、山手線の駅はそれぞれが個性的。例えば新宿と巣鴨では、それぞれの街が持つ歴史や文化が異なり、もちろん集う人も全く違います。私たちは、街が持つ個性を生かしながら、駅を街の交流拠点や文化の発信地として位置付けたいと考えています。具体的にプロジェクトが進んでいる駅もあります。新大久保駅周辺は、韓国料理店をはじめとしたアジア料理店や、日本語学校が多くあります。「食」や「多様性」が新大久保のキーワードだと思います。2020年をめどに、新大久保駅に隣接したビルに、シェフや生産者ら食に関する人々が集うコワーキングスペースなどをつくる予定です。

一木典子・事業創造本部山手線プロジェクトグループリーダー(以下、一木氏):私たちが駅を再定義することによって、街が変わるきっかけになればと思います。駅はいわば触媒。街を変えるのは、あくまで街の人たち、というのが理想の姿です。

山手線プロジェクトについて詳しく教えてください。それぞれの街の個性を生かすとはいっても、全体的な開発の方向性はあると思います。

道正氏:17年に、1都3県(千葉、埼玉、神奈川)在住の山手線利用者5000人に「2030年の山手線周辺の東京の理想の姿」を聞くアンケートを実施しました。すると、最も多く出たのが「緑豊か」や「自然」といったキーワードだったのです。他にも「伝統的な文化を感じられる」「シェアリングサービスがもっと身近になっている」といった回答も少なくありませんでした。

 IT化の進んだ便利な暮らしを望んでいるかと思いきや、正反対の暮らしを求める流れがあるようです。ワークライフバランスを重視し、人とのつながりの中で生きていく。感度の高い若者を中心に広がっている動きです。山手線もこの社会の流れに対応していきます。

一木氏:情報感度の高い若い世代は、山手線の次のメインターゲットです。その層に山手線の魅力を知ってもらい、広めてもらいたい。山手線沿線の街を特集したフリーペーパーを制作し、代官山のカフェや渋谷のミニシアターなどに置いてもらっています。従来であれば、JRの駅構内に置いていたのでしょうが、そんなところに置いても手に取ってもらえません。大々的な広告も意味をなさない。だから、地道に若い世代が集う場所を開拓して、そっと置いているのです。ターゲットへのアプローチの仕方もずいぶん変わりましたね。

日経ビジネスRaiseでは、大学生を中心に「10年後の駅の役割」をテーマに議論しています。まさに今の学生が、次のメインターゲットというわけですね。

道正氏:そうです。だから、自分たちがいま感じていることを起点に自由に発想してもらいたいと思います。私たちは、アンケートの上位に「緑豊か」や「伝統文化」「シェア」といったキーワードがあることに驚きました。ですが、今の学生さんにとっては、当たり前の結果かもしれません。自分たちの感覚を大切にして、この議論に参加してもらいたいです。