東京支社を設立した理由

数々のグローバル企業を顧客に持つ広告代理店から独立した理由は何だったのでしょうか。

イナモト氏:広告代理店の場合、顧客企業が事業の大枠を決めた後に、それを世の中にどう広めるかという仕事を依頼されることが多かったからです。

 新規事業開発でよくあるパターンとして、まずコンサルティング会社が市場調査などをして、何百ページものスライドを顧客企業に提出します。書いてあることが間違っているわけではありませんが、顧客企業はどこから始めればいいか分からないことも多い。そこで「イノベーション創出」を掲げるデザイン会社などに話を持ち込むと、かっこいいが現実味の薄い映像などが成果物として出てくることがままあります。そして時間も予算もなくなった後で、ようやく広告代理店に依頼が来る。

 ビジネスの機会を見いだすところから、未来を想像して形にするところまで、もっと短い期間で現実的に取り組めればいいのですが、そういう会社はあまりない。そこで立ち上げたのがInamoto&Co.です。通常であれば何カ月もかかるような事業開発のプロセスを、数週間で進められるスピード感が強みです。

対外的には、何をする会社だと説明しているのでしょうか。

イナモト氏:新しい機会を見つけ、ユーザー体験をつくることが仕事です。コンサルティング会社でもデザイン会社でも広告代理店でもない、「ビジネス・インベンション・ファーム」と名乗っています。

 例えばウェブサイトのリニューアルを依頼されたとして、そもそもなぜリニューアルするのか、サイト以外にも整理すべきことがあるのではないか、と遡って考え、解決策を提案することが多いです。

プロジェクトはどれくらいの期間に及ぶのでしょうか。

イナモト氏:事業を発表するまでは早くて3、4カ月です。ただ、サービスは世の中に出したら終わりではないので、ずっと関係が続くものが多い。企業に並走して事業を改良していきます。マーケティングの世界では長期契約は一般的ですが、事業開発の分野でこうした長期的な関係を築くのは珍しいと思います。

Inamoto&Co.は7月に東京支社を設立したとのことですが、その理由は何なのでしょうか。

イナモト氏:第1には、日本企業からの依頼が多いという現実的な理由です。第2に、縮小する日本市場に対して危機感を持つ企業が海外に打って出る手助けをしたい。そして第3に、日本企業が世界に影響を与えるチャンスはまだ多いと思うからです。

 日本には頼まれた以上のことをやる文化があり、頼りになる国だと感じます。ものをきちんと作るきちょうめんさを生かせれば、世界でも十分に通用する。

逆に日本企業が抱える課題は何だと思いますか。

イナモト氏:根本的には、そもそも世界を意識していないところです。自信がなく、日本の中だけで満足して終わってしまう。米国の企業には、初めから世界レベルを目指すという自負があると思います。

 「ちょっと大きなことをできるだけ完璧にやる」という考え方が日本では強いですが、「小さいことを10個やって、そのうち1個でも成功すればいい」という考え方も必要だと思います。特にデジタルの世界では、小さい失敗を重ねて大きな成功を狙うという発想が大事です。

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