自分の生き方をデザインする

大竹:最近では、チーフ・デザイン・オフィサー(CDO)といったデザインを統括する幹部を置く企業が少しずつ増えています。田中さんの場合、ご自身の「好き・嫌い」に基づいてデザイン関連の経営判断を下しているようですので、「社長兼CDO」といった役割を果たしているのかもしれませんね。

田中氏:そうですね。ただ、それをどんどん、組織としてやっていかなければいけないので、最近になって「ブランドマネジメント本部」を設置しました。お客さんとのタッチポイント(接点)のところで、「JINSらしいかどうか」を判断する組織として機能させようとしています。

 結局は、ビジョンをいろいろな形で具現化するのがデザインである、ということなのかもしれません。となると、そもそもビジョンがないとダメだということになります。

林氏:その通りですね。

田中氏:ただ、ビジョンをつくるのは結構、難しいんですよ。自分でつくってみて分かったのは、世の中にはたくさんの会社がありますが、しっかりとしたビジョンを持っている会社が、意外と少ないということです。もちろん、言葉として持っている会社はたくさんありますよ。ただ、本当にそのビジョンを実行しようとしている会社はどれだけあるでしょうか。明文化していても、実際のビジネスに結びついていない、ビジョンが形骸化している会社が多いのではないでしょうか。

 私が最初につくったビジョンは、ビジョンというよりも戦略に近かったですね。ビジョンが明確になっていないと、接客や社員教育なども含め、ビジネスがばらつくんです。

 例えば、2009年のビジョンという名の戦略に基づいて事業をしたときは、お客さんがたくさん来ました。それに対応するために、測定や加工といった技術的な教育ばかりをやりました。しかし、本当に必要だったのは、それだけではありませんでした。大切なのは、JINSはこういうブランドで、だから、こういう製品や店舗を展開しているんですということを理解してもらうことでした。そこが不十分だったために、お客さんにJINSというブランドが、間違ったイメージで伝わってしまいました。

 実際、お客さんからクレームがたくさん届きました。ぞんざいな扱いをされたと。これではダメだということで、戦略のようなビジョンではなく、もっと根っこのところを示すビジョンへと掘り下げることにしたんです。

 やはり、ビジョンがないとダメです。自分自身も、生き方をデザインしないとダメですよ。自分はどんな生き方をしたいのか。経営も同じです。JINSは、社会にどんな価値を提供したいのか。それを明確にするうえでも、ビジョンは欠かせません。そして、それを具現化するのが、デザインだと思います、逆にビジョンがなければデザインだってできませんね。

■お知らせ

7月29日(月)、ロフトワーク主催(協力:日経ビジネス)のイベント「デザイン経営 2019」が開催されます。後日、オープン編集会議「デザイン経営を考える」シリーズでイベントの模様をご報告する予定です。