ビジョンがあるから著名デザイナーも協力してくれる

林氏:田中さんは、外部の著名デザイナーをどのように口説き落としているんですか。

田中氏:例えば、ジャスパーは、普通の仕事は受けないんです。では、何でJINSの仕事を受けてくれたのかというと、JINSが手掛けている仕事、JINSのビジョンに共感してくれたんです。

 「Magnify Life」という言葉に共感し、ブルーライトをカットするメガネ開発するといった先進性に共感し、メガネを安くしてメガネを“民主化”したことに共感してくれたんです。値段が安かったら、もっとメガネを楽しめるとジャスパーも思っていました。

 私はジャスパーのメガネだったら高くても売れると思いましたが、彼は「5000円で売りたい」と言ってくれたんです。ようするに、ビジョンが一流デザイナーを動かすんです。

林氏:もう1つ、メガネとは一見、何の関係もない「Think Lab」という会員制ワークスペース事業を手掛けています。なぜですか。

田中氏:もともとは、不動産会社からこのスペースを何かに使いませんかという話が持ち掛けられたんです。そうしたら、ウエアラブルデバイスの「JINS MEME」の担当者が、「集中できるスペースをつくったら面白いんじゃないですか?」という提案をしてきたんです。JINS MEMEには、メガネに組み込まれているセンサーを使って集中度合いを測定できる機能があります。取引先から、「JINSの皆さんは集中できているんですよね」と言われることもあるんですが、必ずしも集中できていない(笑)。そこで、集中できる会員制ワークスペースを作ったら面白いねという話になりました。

林氏:社内向けではなく、社外に貸し出す会員制ワークスペースにしたのはなぜですか。

田中氏:純粋に、ビジネスになると思ったからです。そういうワークスペースは日本に足りない環境だし、ビジネスになるとひらめきました。

林氏:田中さんにとっては自然な発想かもしれませんが、メガネ業界としてみたら不自然です。

田中氏:皆さんから言われましたよ。何でそんなことをやるんだと。JINS MEMEをやったときも、メガネ屋さんが、何でテクノロジーを使ったウエアラブルデバイスをやるんだと言われましたね。だけど、ビジョンに沿っていれば、「これをやってはいけない」というものはありません。

林氏:田中さんは、ご自身にデザイナーの要素はあると思いますか。

田中氏:明らかに、いわゆるデザイナーではありませんよね。自分でモノをデザインすることはできませんから。ただ、ビジネスを通じて、体験をデザインしたいとは思っています。体験をデザインするという意味では、デザイナーかもしれません。

林氏:体験をデザインするのが経営者、それを製品やサービスなどに具現化して見せるのがデザイナー、ということなのかもしれませんね。

田中氏:そうかもしれません。そもそも、デザインって何だろうと考えてみたんです。

 先日、出張でスイスに行ったときに、ピンクの柄にパープルのブラシが付いている歯ブラシを買ってきたんです。たかが歯ブラシでも、使ったり、洗面台に置いたりしたときに気持ち良くないと、捨ててしまいますよね。でも、その歯ブラシは、そうは感じない。しっくりくる。つまり、デザインというのは、何かストレスから解放する役目を果たすのかもしれません。

 ひとことで「デザインとは何か」を言うのは難しいですね。奥が深い。

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