
社外のデザイナー選びの基準は自分が「好きか、嫌いか」
林氏:JINSはジャスパー・モリソンなど外部のデザイナーとコラボレーションをしていますが、社内だけではなく外部のデザイナーを積極的に起用するのはなぜですか。
田中氏:人は皆、個性が違いますよね。しかし、個性が違っても、私がやりたいことについて、ぴったり合う人、デザイナーと仕事をするのが合理的ですよね。
それに、社内のデザイナーだけでは、視野が狭くなってしまうと思います。社内だと、どうしても社長にモノを言いにくいですよね。だからこそ、外部の人材をうまく活用しないと、会社の活力がなくなってしまうのではないかと思います。
林氏:どうやって、一緒に仕事をする社外のデザイナーを選ぶのですか。
田中氏:それは、極端に言えば、自分の考えに合うかどうか、好きか嫌いか、です。優秀なデザイナーはたくさんいますが、私自身がどのようなスタイルが好きかで選びます。
大竹:田中さんのセンスに頼るところが大きいということですか。
田中氏:会社というのはそういうものですよ。経営者自身が、何が「好きか嫌いか」という軸が定まっていないと、何かこう、“ちらし寿司”みたいに、バラバラの具が乗っている感じになってしまいますよね。ここはタコで、ここはイカで、ここはマグロで、みたいな(笑)。
大竹:田中さんの「好き・嫌い」が、消費者の「好き・嫌い」とズレてしまう可能性もあります。怖さはありませんか。

田中氏:でも、例えば、どんなデザインでも一定のニーズはありますよね。どんなデザインでも、全ての人に好かれることはないですよ。ビジネスで大切なのは、人と違うことなんです。人と違うことをやらない限り、人と違う結果は生まれないですよね。
林氏:メガネを1人でも多くのお客さんに買ってほしいという考えが、田中さんには当てはまらない(笑)。
田中氏:もちろん、買っていただきたいですよ(笑)。だけど、例えばジャスパーは世界的なデザイナーですが、ジャスパーがデザインしたメガネを買いたくない人だってたくさんいるんです。
「売れるから」という理由だけでは、ビジョンに合わないものまでやることはやめました。かつて、こんなことがあったんです。メガネのテンプル(つる)に柄のデザインをしていたんです。確かに売れるんですよ。でも、ダサかったんです。売れるからって、そういうデザインのメガネを売っていたことがあるんです。
でも、ビジョンを定めてからは、ビジョンに合わないことは、一つひとつやめていきました。ビジョンに合わない商品をどんどん削っていったら、面白いことに、売り上げが伸びていったんです。
大竹:やらないことを決めるためにも、ビジョンは大切だということですね。
田中氏:どんなブランドになりたいか、ということが明確になったら、それに合わないものは売れてもやらない。そういう決断ができるようになりました。
大竹:社長という立場だと、「売れるのにやらない」ということを、どのように株主に説明するのですか。四半期ごとの業績に対するプレッシャーは大きいですよね。
田中氏:もちろん、「嫌いだからやらない」という説明の仕方はできませんよ。しかし、長期的なブランドの価値、会社の価値を上げるためには必要だと、説明することはできます。私は発行済み株式の3分の1以上を保有する大株主ですから、長期的な視点で経営できますし、他の株主に対しても長期的な価値を訴えます。私には、長期的な価値を上げる自信があります。