
最初に掲げたビジョンは、ビジョンになっていなかった
林氏:先ほど、2009年ごろからビジョンを掲げ始めたとおっしゃいましたが、2014年に「Magnify Life」というビジョンをつくるまで、田中さんの中ではどのような変化があったのですか。
田中氏:実は、2009年ごろはまだ、「ビジョン」という言葉の意味をあまりよく理解できていませんでした。最初に掲げたビジョンは、「メガネをかけるすべての人に、よく見える×よく魅せるメガネを、史上最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する。」というものでした。これを実現したら、確かに製品は売れますよね。
しかし、世の中は変化するんです。つまり、こういった言葉を生み出す、さらに根っこの部分をつくらなければいけないと考えました。最初に作ったビジョンは、どちらかと言えば「戦略」に近いもので、ビジョンと言えるようなものではなかったんですね。そういうことで、新しいビジョンの策定を始めたんです。
当時、ビジョンを作るために外部の協力会社を探しました。国内の会社も考えたのですが、多くのクライアントを持っているので、うちは他社がやっていないことをやろうと決めました。ビジネスというのは、他と違うことをやるのが基本ですので。そこで、まだ日本では事業をしていなかったアウディやポルシェなどをクライアントに持つドイツのKMSという会社の門をたたきました。

初め、KMSはけげんそうな顔をしました。アウディなどと比べると、JINSはとても小さい会社ですから。それでも、うちの事務所に来てくれて、「ビジョンというのは、取ってつけたようにつくれるものではない。会社の歴史や文化から抽出してつくるものだ」と言って、私の話はもちろんですが、多くの従業員とも面談を重ねてくれました。こうしてつくり出されたのが、「Magnify Life」というビジョンです。
KMSから、JINSには3つの特徴があると言われました。1つが、JINSは非常に「honest(誠実な)」であるということ。もう1つが、「progressive(進歩的な)」であるということ。そして最後が、「inspiring(インスパイアする)」ということだと。その3つの特徴から生み出されるビジョンが、「Magnify Life」というものでした。
大竹 剛(日経ビジネス、以下、大竹):なぜ、日本ではなく海外のデザイン事務所に頼んだのですか。
田中氏:なぜ欧米の会社に頼んだかというと、中国に出店して、アメリカに出店して、これからグローバルなブランドになっていこうというときに、日本の会社ではグローバルなビジョンをつくるのは難しいのではないかと考えたからです。あとは、ビジョンは英語にしたいと思いました。最初に日本語でつくって、それを英語に訳すのでは、いい英語のビジョンはつくれないでしょう。
英語の話になると、つくづく日本の会社は不利だなと思いますよね。みんなの生活が英語になれば、マーケットは一気に増える。同じ言葉でも、ネットで単語を調べると英語の方が日本語よりもたくさんの情報が出てきます。日本企業はちょっと損をしていますよね。