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読者と一緒に考えてきた「デザイン経営とは何か」。今回は、オープン編集会議プロジェクトに協力してくれているロフトワークの林千晶代表とともに、デザインに優れたメガネを低価格で販売するジンズホールディングスの田中仁CEOに話を聞いた。田中CEOは、ビジョンを明確にしたからこそ、「デザイン経営」を実践できるようになったと話す。皆さんは「ビジョン」の大切さについて、どう思いますか。ご意見をお寄せください。

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林千晶・ロフトワーク代表(以下、林氏):JINSは、もはやメガネ会社という枠組みではとらえきれません。ウエアラブルデバイスの「JINS MEME(ジンズミーム)」を発売したり、会員制ワークスペースの「Think Lab(シンク・ラボ)」を始めたり、ライフスタイルを提案する会社として、事業ドメインがどんどん広がっています。田中CEOご自身は、そうした成長の原動力はどこにあるとお考えですか。

田中仁・ジンズホールディングスCEO(最高経営責任者、以下、田中氏):会社のビジョンを掲げ始めた2009年ごろから思っていることなのですが、商売というのは、運と縁さえあれば、上場できてしまうんですよ。しかし、新興市場に上場して、その後も成長し続けて東証1部にまで行けるのは一握りです。つまり、ほとんどの会社は、上場したら「上がり」なんですね。

ジンズホールディングスの田中仁CEO(写真:村田 和聡、以下同じ)

 実は、私もそのような状況になりそうでした。上場した後に2期連続で赤字になって厳しい状況に陥り、たまたま柳井さん(柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長)にお会いする機会があって、叱咤(しった)激励されたんです。これは既に、いろいろなところで書いていただいておりますので、詳しくはお話ししませんが、それを機に、ビジョン、つまり、志がない会社は継続的に成長できないと考えるようになりました。

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 確かに自分はそれまで、企業の存在価値、自分自身が働く意義といったことを本気で考えたことはありませんでした。わりと、流して生きてきたわけです。しかし、そうした問いに答えを出したことで、全てが変わりました。

林氏:そこで、「自分たちは“メガネ屋さん”である」という考えを捨てたということですか?

ロフトワークの林千晶代表

田中氏:“メガネ屋さん”であることを捨てたというより、価値を生み出せない企業は淘汰される、ということに気がついたのです。ただ安くメガネを大量に売ってもうかる会社というのも、それはそれでいいかもしれませんが、持続性はありません。だから、うちは価値を生み出し続ける会社になりたいと思ったんです。

 「価値を生み出し続ける会社になる」と目標を定めたことで、必然的に事業ドメインは、「メガネ」から「見る」ということに変わりました。

林氏:田中さんご自身の「成功」を測る指標も変わりましたか。

田中氏:人によっては、成功の指標は売り上げや利益でしょう。しかし、私は社員にもよく言うのですが、うちは世界一の売り上げを目指しているわけではありません。世界一、という言葉を使うのなら、うちは価値を生み出すことで世界一になりたい。お客さんから、「JINSがあったから生活が便利になった」とか「生活が楽になった」とか、そういうことを言われる会社、ライフスタイルをクリエイトする会社にしたいのです。

林氏:ビジョンとして、「Magnify Life」というキーワードを掲げていますが、これはどういう意味ですか。

田中氏:それは、JINSが生み出す製品を使う人が、JINSの製品によってその人の生活(life)が拡大する(magnify)、という意味です。magnifyというのは、顕微鏡などでモノを見るときの「拡大する」という意味ですよね。つまり、JINSは人々の人生を広げられるような、製品やサービスをつくり出したい、というイメージです。このビジョンは2014年に掲げました。