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(左から)矢島進二氏(日本デザイン振興会)、今井裕平氏(kenma)、田川欣哉氏(Takram)、丸尾弘志(日経BP総研)がパネラーとして登壇

 「椅子を例に取ると、デザイナーは適切な寸法や座り心地といった合理的な側面だけでなく、『生活の質』や『生活者が望むテイスト』といった品質にこだわり、『この椅子はこうでないといけない』と決める。こうした『質』を考えることがデザイナーという仕事の特徴だ」

 デザイン経営のエッセンスもそこにあるという。経営やエンジニアリングは、金額や指標、性能など「量」を共通言語として、そうした側面に議論が偏りがちだ。しかし、デザインの考え方を学ぶことで、経営者の目が「質」の側面にも向く。

 田川氏によれば、先進国の市場が質を求める傾向はさらに強まっている。物理的なモノを扱う産業から、IT技術を通じてサービスを提供する産業へと、ビジネスの中心が移りつつあるからだ。従来の物理的な製品であれば、購買のタイミングで顧客に訴求できればよかった。そのために企業は製品の機能や価格、販売チャネル、プロモーションに力を入れてきた。しかし動画配信のようにサブスクリプション(逐次課金)型のサービスの場合、分かりやすさや使い心地といった体験の質が悪いと、ユーザーはすぐに競合サービスに乗り換えてしまう。

 「平たく言えば、一時的に好きになってもらう『恋愛型』から、ずっと一緒にいようとする『結婚型』へと、ビジネスモデルが変わってきている。それがインターネットビジネスだけでなく、物理的な世界にも染み出してきている」

「デザインに投資し、リターンを得る」

 こうした観点に則れば、デザイン経営の定義のひとつは、「経営の上流で質の議論を重視すること」といえそうだ。中小メーカーなどをクライアントに経営とデザインの橋渡しを担う今井裕平氏(kenma代表)も、「経営を『リソースの配分』と考えると、デザイン経営とは簡単にいえばデザインに投資すること。そして、デザインへの投資からきちんとリターンを得ることだ」と語る。今井氏によれば、以前は大手企業からの受注に依存していたBtoBの国内メーカーが、リーマン・ショック以降、デザインを競争力にして自立を目指すケースが増えているという。「ただし、単にデザイナーと企業をマッチングしても上手くいかない。経営者の視点でデザインを語る人が求められる」