まるでビジネスホテルのよう

 竹岸が遺体ホテルの内部を案内した。エントランスを入ると、正面にチェックインカウンターがあり、コンシェルジュが座っている。その横に自動ドアがあり、先が遺体安置室になっている。室名はアルファベットでAから番号がふられ、計11室がある。ホールには、ソファやオブジェが置かれており、ここが遺体保管所であることを知らされなければ、一般のホテルと錯覚してしまうような雰囲気だ。

 だが、各部屋のドアを開ければ、一般のホテルとは一線を画す空間が広がる。

 遺体安置室の広さは10畳ほど。遺族が座れる椅子と小さなテーブルがあるだけで、がらんとしている。遺体を納めた棺を置くと、くつろげるようなスペースはなくなってしまう。棺は間近で見ると、思いのほか大きい。

 旅館業法上のホテルとしての許認可は受けていないので、遺族の宿泊に必要なベッドや水回りはないという。遺族がひと息つける場として、2階にはラウンジがある。

 そういえば、映画などのシーンでよく見る遺体安置所は、ステンレス製のベッドに遺体を乗せて、壁面に収納される冷蔵式のものを想像する。だが、そうそうの部屋にはこうした冷蔵機能はない。1日に何度か葬儀社のスタッフがここまでやってきて、ドライアイスを補充していく。

 料金は1日(24時間)当たり9000円(税込み)。訪れた日は全11室のうち9室が埋まっていた。しんと静まり返った廊下を歩いていると、一つの部屋から遺族と思われる人の声が漏れてきた。

 「私どものほうからお客様に、利用目的や、亡くなられた方の属性をお聞きすることはありません。しかし、ご遺族の雰囲気や、葬儀社さまから間接的に状況を知ることがあります。本日は、自死された方が入っていらっしゃるようです。先日は、臨月でお腹の赤ちゃんとともに亡くなられた方がいらっしゃいました。そうした予期せぬ死に接したご遺族は、すぐにその事実を受け入れることが困難です。心の整理をつけるために、このホテルを利用される方が少なくありません」

 竹岸は、「開業当初は、鳴かず飛ばずでした」という。しかし、騒動が収束しつつある最近では月に200人ほどの遺体が運び込まれてくる。2015年の稼働率は73パーセント。一般のホテルに置き換えれば、なかなかの繁盛振りだ。遺体ホテルの利用者は、今後、ますます増えていくだろうと、竹岸は予測する。日本における死を取り巻く社会が、大きな節目を迎えているのだ。