「火葬されるペットは犬や猫だけではありません。小鳥やハムスターなどの火葬はよくあります。こうした小動物でも火力を調整すれば、きちんと骨にでき、お骨を拾えます。しかし、先日はある若い女性が、飼育されていたカブトムシをお持ちになられたことがありました。さすがに、カブトムシは骨にすることができませんが……」(ペット火葬担当者)

 冗談のような話だが、昆虫の火葬に関しては、筆者は関西のあるペット専用霊園を取材した際にも聞いたことがあった。そこで聞かされたのは、帰省してきた孫に頼まれて、祖父母が孫を連れてカブトムシを火葬しに来たケースだった。

 普段は都会に住んでいて、夏休みにしか孫は帰省してこない。祖父母の家で飼っていたカブトムシが死んだ際、「おじいちゃん、カブトムシが死んだから人間と同じようにお葬式してあげて」と孫が言う。

 祖父母にしてみれば、年に1度しか帰ってこない孫の頼みはなるべく聞いてやりたい。孫かわいがりで、祖父母が火葬場に連絡をしてくるのだ。

 ペット葬からも、日本の都市化、核家族化が透けて見えるようだ。いずれにせよ、人間の葬送の形態が縮小していくのと反比例して、ペット葬産業のほうは肥大化している実態がありそうだ。

「火葬船」の構想も

 少々脱線したが、話を人間の火葬場に戻したい。火葬場では民間と公営とでは運営の仕方が異なる。それぞれにジレンマを抱えているようだ。

 公営斎場は、利用料は安いが、設備面は民間に比べて分が悪い。運営の原資が税金であるため、施設の改良が難しいのだ。炉は1基当たり1億円以上する超高額商品だ。壊れてもいないのに、最新の炉に買い替えるための予算を確保することは現実的には難しい。

 そのため、横浜市では炉内のレンガをこまめに修繕することで炉の長寿命化を図っている。しかし、使用頻度が高まれば、炉への負荷が高まり、耐用年数が短くなる。炉の火力を強めれば、より早く骨灰にすることは可能だと思われるが、骨が傷んでしまう。箸で骨を拾えるように、「美しく焼く」には職人技が必要だ。

 公営火葬場の場合、炉も増やせず、火葬の回転数を上げられないジレンマに陥っているのである。

 こうした火葬場設置のジレンマを解消する斬新なアイデアとして、長年、議論されてきているのが「船上火葬」である。船上火葬は、炉を備えた船の上で火葬する方法で、大正時代には火葬船葬禮株式会社という企業が警視庁から認可を受けた。

 だが、最大のネックは沿岸の漁師や港湾関係者の反対で、これまで実現には至っていない。現在も船上火葬の可能性を探るべく、シンポジウムなどが開かれてはいるが、具体化に動き出した例はない。

小松市や加賀市は「里帰り火葬」を呼びかけ

 首都圏の火葬場の混雑を避けるため、故郷に遺体を移して火葬しないか、と呼びかけている自治体もある。石川県小松市と加賀市では小松加賀環境衛生事務組合が音頭を取り、2015年夏から「ふるさと火葬」を始めた。地元の火葬場「小松加賀斎場さざなみ」では、小松空港から車で数分という地の利を生かして、主に羽田空港経由での棺の空輸を受け入れる。

 空路で首都圏から遺体を運ぶには15万円程度のコストがかかるが、故人をずっと霊安室で待たせている、という遺族の心理的な負担が解消されるメリットもある。しかし、長距離移動の煩わしさなどの問題があり、利用者はほとんど現れていないのが実情だ。

 2016年3月、小松市出身で首都圏で亡くなった男性が、ふるさと火葬を利用した第一号になったが、この場合は、故人が故郷での葬儀を望んだからだという。

 大都市に出てきた人たちの中で、死後にあまり執着しない人は多い。あっさりと肉体や魂が消えてほしいと願う。だが、肉体を消すのですら、そうは簡単にいかない時代が到来しつつある。

=敬称略=

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無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教
鵜飼秀徳著/日経BP/1700円(税別)

遺体や遺骨が彷徨う時代――。既に日本は死者数が出生数を上回る「多死時代」に突入した。
今後20年以上に渡って150万人規模の死者数が続く。
遺体や遺骨の「処理」を巡って、死の現場では様々な問題が起きている。
首都圏の火葬場は混み合い「火葬10日待ち」状態。
遺体ホテルと呼ばれる霊安室ビジネスが出現し、住民運動が持ち上がっている。
都会の集合住宅では孤独死体が続々と見つかり、スーパーのトイレに遺骨が捨てられる――。
「無葬社会」が、日本を覆い尽くそうとしている。
そこで僧侶や寺はどう向かい合えばいいのか。
「イエ」や「ムラ」が解体され、墓はどうなる?
現代日本における死のかたちを通して、供養の意義、宗教の本質に迫る。
『寺院消滅~失われる「地方」と「宗教」~』の著者、渾身の第2弾。