BrewDogは、数々のキャンペーンで物議をかもしてきた。ロンドンの街をソ連製の戦車で駆け抜け、ヘリコプターから猫の剥製をばら撒き、大手企業のビールを粉砕する動画を公開した。そのいずれもが「パンクだねぇ」と唸らせるものだ。

 それだけではない。パンクには、自分たちに必要なものは自分たちでやるという「DIY(Do It Yourself)」の考え方がある。アンダーグラウンドシーンで活躍したイギリスのパンクバンド「クラス(Crass)」は、レコード会社が自分たちの思うようにプロモーションしてくれないことに腹を立て、当時誰もやっていなかったインディペンデント・レーベルとして「クラス・レコード」を立ち上げた。印刷機も自前で用意してレコードジャケットを制作することもあったという。

「キャッシュは酸素であり、血液だ」

 ジェームズ・ワットは、パンクバンドのDIY精神にならい、独立独歩で会社を運営するために、財務・会計を徹底的に学んだ。『ビジネス・フォー・パンクス』では、かなりのページを割いて、ベンチャーが生き残るための財務・会計の知識について、独特の言葉で語っている。

一番大事なのは利益じゃない。利益はナンバー2ですらない。(中略)キャッシュこそ絶対王者だ。利益はただの手段であって、目的ではない。しかし、キャッシュはわけが違う。キャッシュは酸素であり、血液だ。

 一橋大学の楠木建教授によると、パンクがメタファーとして優れているのは、それが単に音楽のジャンルを表すのではなく、「さまざまな要素を包括して凝縮したコンセプト」だからだ。ジャンルを超えた価値基準となり、文化として定着しているからこそ、企業活動から個人の生き方にいたるまで普遍的に活用できる。

 会社という組織の中に文化として「パンク」を定着させるために、ジェームズ・ワットらは企業憲章を作った(前回の記事参照)。「我々の血管にはクラフトビールが流れている」「我々はひとりでは何者でもない――我々はBrewDogとして存在する」と、これまた独特の言い回しで構成されている企業憲章は、多くの社内のメンバーとディスカッションをしながら練られていったという。

 抽象的ではあるが、具体的な価値基準として機能するメタファーを獲得すれば、企業は強くなる。「解説」から引用しよう。

具体的なレベルでパンクなことを選択し、次々に実行していく。そうした実験の試行錯誤の中でさまざまな成功や失敗が生まれ、学習が蓄積される。こうした一連の過程を重ねることによって、起点にあるパンクの精神についての理解もまた深まり、豊かになっていく。(中略)ようするに、それがメタファーであるがために、パンクという価値基準の定義は具体と抽象の往復運動を起こしやすいのである。ここにメタファーの強みがある。

 これを読むと、経営理念とは違うメタファーの機能がわかってもらえるだろうか。