過激なクラフトビールメーカーが世界中でファンを獲得している。英BrewDog(ブリュードッグ)だ。「パンクの精神」を事業の基礎にし、「革命戦争を始めよう」と呼びかける。彼らが支持を集めるのは、常軌を逸したマーケティングのせいなのか。クラウドファンディングで20億円を集めたBrewDogの秘密に、その創業者の著書から迫る。
2016年9月、『ビジネス・フォー・パンクス』という本が日本で発売された。著者の名前はジェームズ・ワット。英国を代表するクラフトビール会社BrewDog(ブリュードッグ)の共同創業者だ。
BrewDogの成功は、本国のビールファンの間では伝説のように語られている。2007年に24歳の若者2人が3万ポンドで始めた会社が、2015年には売上4500万ポンド(約82億8000万円)を達成し、営業利益は550万ポンド(約10億1000万円)にのぼる。この4年間に英国で最も成長した食品・飲料メーカーであり、売上の半分以上を海外であげる国際企業でもある。
看板商品である「PUNK IPA」は、英国と北欧で最も飲まれているクラフトビールの銘柄だ。大量のホップを使い、華やかな香りとグレープフルーツのような苦みが特徴。東京・六本木にあるBrewDogのオフィシャルバーはもちろん、日本のスーパーやコンビニでも購入できる。

だが、BrewDogを一躍有名にしたのは、丁寧につくられたクラフトビールの味というより、大手ビール会社や古い体質の業界団体との派手な喧嘩や、過激なキャンペーンかもしれない。
2010年には、当時アルコール度数世界一となったビール「ジ・エンド・オブ・ヒストリー」を発売したが、パッケージに交通事故で死んだリスの剥製を使ったため動物愛護団体から抗議を受けた。大手企業のビールを破壊する動画を公開したり、キャンペーンのため戦車でロンドンの街を走ったり、英国の国会議事堂の壁に創業者2人の写真(しかも裸)をプロジェクターで大写しにしたこともある。
彼らの行動は常に物議をかもしてきた。若いファンが熱狂する一方で、“良識ある大人たち”は眉をひそめる。日本人なら、かつての“ホリエモン”を思い起こすかもしれない。
それでも、ジェームズ・ワットは起業家としての実績を重ねてきた。創業以来、利益を上げ続け、2014年には「グレート・ブリティッシュ・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2015年11月に書籍『ビジネス・フォー・パンクス』を英国で発売すると、数か月間Amazon.co.ukの「起業」ジャンルで1位を独占した。書籍には「人の話は聞くな。アドバイスは無視しろ」といった強烈なフレーズが並んでいる。
クラウドファンディングで“株”を発行

果たして、BrewDogは新しい価値を提供する新しいビール会社なのか。それとも、派手なパフォーマンスによる“炎上マーケティング”をするだけの集団なのか。
この疑問に答える鍵として、ひとつの数字がある。BrewDogは、クラウドファンディングを通じて特殊な株を発行し、これまでに「20億円以上」を調達している。株を受け取った熱狂的なファンは3万人にものぼる。
この株は「パンク株(Equity for Punks)」と呼ばれている。『ビジネス・フォー・パンクス』には、パンク株の始まりについてこう書かれている。
「パンク株」プロジェクトについて法律事務所と話し合ったとき、最初の7社(なんと7社も!)には、まったく手に負えないと断られ、ぼくらのやりたいことは実現不可能だと言われた。最初の3、4社に断られた時点で「もうやめた」となるのが普通かもしれないが、ぼくらは違う。クラウドファンディングでビール革命を起こすというビジョンを実現すると心に決めていたからだ。そして8社目で「少しは可能性がある」と言われると、「パンク株」の成功に自分たちの未来をすべて賭けた。
調達した資金は新しい醸造所の建設とさらなる世界進出に投入された。2016年にはアメリカにも最新式の醸造所が完成し、またアメリカ国内向けのパンク株の発行も始まった。
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