「口の堅さ」は出世とリンクしているか?
『「選ばれる人」はなぜ口が堅いのか?』『GRIT』
かねてから自分の問題意識の中に「口の堅い人ほど出世する」というテーマがあった。
なぜ、そんなことを思ったのか?
理由その1。エリートは口数が少ないから。
私の現在の肩書きは書籍編集部長兼書籍販売部長であるが、その前は雑誌「プレジデント」の編集部に20年ぐらいいた。その取材の過程で、たくさんの大企業の幹部、サラリーマン経営者、トップ官僚などに会ってきた。それらのエリートたちに共通する特徴は「口数少なく」「必要以上のことはほとんど話さない」といったものだった。あまりに「口が堅かった」ので、私は彼らのことを「カンサラ(完璧サラリーマン)」と心の中で命名していた。話してくれない人は記者や編集者にとってはもっとも付き合い辛い人でもあった。
一方で、孫正義、柳井正、永守重信といったカリスマベンチャー経営者もよく取材したが、彼らはその逆で、「おしゃべり」「サービス精神が旺盛」。よって舌禍事件を起こし、マスコミに叩かれることもあった。しかし、彼らは例外中の例外で、普通のサラリーマンの世界では大口も叩けないし、なかなか失敗が許されない世界。よってサラリーマン的には前者が圧倒的に「出世」している。
編集会議と営業会議
理由その2。出世する人はお喋りよりも結果が求められているから。
私が書籍の仕事を始めて「兼務」ということで、編集会議と営業会議の2つの会議のファシリテーターを務めることになった。
編集会議は、できるだけアイデアを引き出して参加者の創造力を引き出すことが必要だ。だから、ブレストと称してダラダラとおしゃべりを続けるようになる。時には(というか毎回)脱線の連続で、その中でキラリと光る企画が生まれたりすることもある(実際はほとんどない)。
かたや、営業会議は、数字を元にすべてが語られ、脱線は許されない。淡々と数字の報告がなされ、今後の方向性などが検討される。
当然、会社の中で上に行けば行くほど、数字がすべての世界。編集の仕事も編集長になったとたんに数字がすべてになる。そんな中、余分なことは話さずに、結果を出す人こそが、出世していくのである。
そんな私の問題意識を、広報のプロフェッショナルである大谷恵さんにぶつけ、『「選ばれる人」はなぜ口が堅いのか?』という本は完成した。
大谷さんも、広報ウーマンという立場上、多くの経営者やマネジャーが、会見で失言したり、あるいはSNSで「炎上」を引き起こす場面をたくさん見てきていた。自分自身もメルマガ発行の仕事で「炎上もどき」を経験したこともあったという。そうした失敗を防ぎ、「選ばれる人」になるにはどうすべきか、といった自説を展開してもらった。
「言わない」で切り抜けるには
特に世の中はSNS全盛の時代。個人がツイッター、フェイスブック、ブロクといったメディアに発言することが可能となった。つまり、うまく自分をアピールすれば可能性は無限に広がるその一方で、ちょっとした投稿やニュースのシェアが、とんでもない事態を招き、自分のキャリアを台無しにする可能性も出てきたのである(本書には不注意なSNSへの投稿が理由で転職がパーになったケースも紹介されている)。
また、本の中ではいかに「言わない」で切り抜けるか、といったテクニックもたくさん出てくる。少し前に、菅義偉官房長官と東京新聞の望月衣塑子記者とのやりとりが話題になったが、菅氏の質問の切り抜け方はまさに「天才的なかわし」であり、ビジネスパーソンはまねできるところが多いと思う。自分は口が軽いな、と思った方はぜひ同書を読んで欲しい。実際に口が堅くなるかどうかはわからないが、エリートの所作を学べると思う。
『GRIT』は米国内では「天才賞」とも称されるマッカーサー賞を3年前に受賞したペンシルベニア大学心理学教授、アンジェラ・ダックワースの著作で、ビジネスリーダー、エリート学者、オリンピック選手…成功者の共通点は「才能」でも「IQ」でもなく「グリット」(やり抜く力)だった、と喝破している本だ。
発売当初はそんなに売れているような気配はなかったが、ある日突然、版元のダイヤモンド社がアクセルを踏み、ベストセラーになっていったようである。
内容を読むと、「努力」と「継続」こそが最大の武器だ、ということをあらゆる事例から語っている本で、自分に才能がなくても成功できるのでは? と思わせるところがすごい。
マクドナルド創業者との共通点も
私は2007年にマクドナルドの創業者であるレイ・クロックの自伝『成功はゴミ箱の中に』という本をつくった。今年の7月にマイケル・キートン主演の「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」という映画になり、現在もロングランを続けている。そのレイ・クロックの口癖の一つに「継続に勝るものはない」というものがある。マクドナルドを作った男が、まさに『GRIT』こそ、ビジネスで最も大事なことだ、と言っていたのだ。
ちなみにこの 『成功はゴミ箱の中に』のアメリカ原題は「GRINDING IT OUT」であり、まさに「やりぬく力」。口が堅くて、やりぬく力を持っていれば最強のビジネスパーソンになれるだろう。
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