担当:東洋経済新報社 出版局 編集第一部長 岡田光司

「『ヤンキーの虎』って何ですか?」
「マイルドヤンキーたちの上に立つ人だよ」
「??」
この本のアイデアを、本書の著者・藤野英人さんから聞いた際の最初のやり取りは、こんな風だったと記憶しています。
マイルドヤンキーとは、博報堂の原田曜平氏が地方や都会の郊外に住む若者たちを調査し、著書『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)の中で名付けたもので、地方で生まれ育ち、都会に対するあこがれをあまり持たず、地元で働いて、その生活に満足している現代の若者たちを総称した言葉です。
「成長意欲や出世欲は強くなく非常に保守的」「小中高時代の友人たちが大好きで、繋がりを大事にする」「遠出はせず、生活も遊びも地元で済ませる」など、およそ従来の若者イメージとはかけ離れた実態が驚きをもって受け止められ話題になりました。
そのマイルドヤンキーの上に立つ存在が「ヤンキーの虎」だと言うのです。一体どのような人たちなのでしょうか。
これに対する藤野さんの答えは実に明快でした。
「地方に住んでいて、地方でミニコングロマリット(様々な業種・業務に参入している企業体)化している、地方土着の企業家」
「地縁・血縁を重視し、地域の雇用維持・創出に大きく貢献している地方土着の企業家」
地方で受け取る不思議な名刺
具体的には、建設業、不動産業、リフォーム業、保険の代理店、介護施設の運営、携帯電話の販売代理店、ガソリンスタンドの経営、中古車販売、ケーブルテレビの運営、飲食店、複数のコンビニチェーンのメガ・フランチャイジーなどの事業を組み合わせて経営し、その地域において一定の存在感を示している企業の経営者です。
藤野さんは投資家として、年に100日以上、自ら地方に足を運んでいます。その際、各地で講演会や勉強会などを積極的に行ってきましたが、そこで来訪者からもらう名刺の裏に様々な業種が書かれているのを不思議に思っていたそうです。
地方経済は、2000年代に入って以降、10年以上疲弊を続けてきました。特に小泉改革にともなう公共投資の縮小は地方経済にとって大打撃となりました。それまで地方経済の主役だった建設業を中心に飲食店やサービス業など多くの企業が倒産することになったのです。
しかし、その一方で、携帯ブームやフランチャイズ化の波に乗り、地方で新たなビジネスを拡大させている経営者たちが登場しました。また、大企業が地方から撤退していく中で、残された仕事を受け、ライバル不在の環境で、隙間産業を束ねて伸びていく経営者たちも出てきました。彼らこそが「ヤンキーの虎」なのです。
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