自動車や食品など他産業から学ぶべき

業界全体が閉鎖的な点も気になります。他の産業でどんな変化が起こっているのか知り、それを積極的に取り込んで成長する、といった感覚に乏しいのではないでしょうか。

尾原:グローバルな感覚は乏しいと思います。勿論、パリやミラノに足しげく通っている人は沢山いますよ。でも、それはアイデアを取りに行ったり、現地で何が売れているのか調べたりするという「リサーチ」に過ぎないわけです。日本人バイヤーも世界中を飛び回っていますが、これも買う側ですから、立場が強く、こちらの意向が通るのは当たり前です。本当の意味でグローバルというなら、難しくても売る側に回ろうとするはず。海外について、「自らの商品を売る市場だ」という観点で捉えている人は少ないですね。

 例えば、キッコーマンやトヨタがいかに世界を席巻したのか。アパレル業界は、こうした他産業の成功事例を参考にしません。ファストファッションに対しては「安易にデザインを模倣する」という批判もありますが、コストに対して、非常に敏感な彼らのアプローチには正直、驚かされました。例えば、スペインの「ZARA」はトヨタの生産システムなどを徹底的に勉強し、それをZARA流に再構築するという取り組みを20年前からやっています。

 広義のファッションは「人が魅力的になる」という意味で非常に大事ですし、その価値は未来永劫続くでしょう。でも、刻々と変わる顧客の生活や価値観に、どうすれば寄り添い、選んでもらえる仕組みを作れるのかということを、企業は真剣に考えなければいけない。それができれば、日本のアパレル産業に未来はあります。でも、変わらなければ滅ぶでしょう。それが、この本で一番訴えたかったことです。

 消費者不在でビジネスを進めてきた点も、懸念しています。顧客満足を徹底するならITを活用しなければいけない。コストダウンによって価格を抑えるなどのメリットが生まれるからです。しかし、そのための技術があるということすら知らない人が多い。「うちは顧客志向です」と口では言うけれど、どれだけ顧客一人一人の顔を見て商売しているのでしょうか。かといって、今やっているビジネスをそのままIT化してもダメです。負担の大きい複雑なシステムが出来上がるだけでしょう。

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