新聞社は負けていないが、勝てるチャンスは逃した

本作は2005年のライブドアによるニッポン放送買収騒動を下敷きにしています。本城さんは当時舞台となったフジサンケイグループで「サンケイスポーツ」の記者をしていました。まさに自分たちの会社にITベンチャーの手が迫ってくるという経験をお持ちです。どのような心境でしたか?

本城:もう会社がなくなるんじゃないかと焦りました。当時は堀江貴文さんのイメージがずいぶん悪かったんです。ライブドアはポータルサイトを運営していたから、産経新聞やサンケイスポーツをグループから切り捨てるのじゃないか。そうなったら我々はどうなるのだろうとか、いろいろ考えましたね。

 その頃はプロ野球担当でしたから、ライブドアが新球団「ライブドアフェニックス」で球界に入ろうとした際には取材もしました。よく言われますが、プロ野球の球団経営はそれぞれの時代を象徴する企業による「たすきリレー」です。業種で言うと、新聞社、映画会社、鉄道会社などに小売業であるダイエーが登場する流れです。

 楽天やライブドアが参入を表明した時点では、収益性を重視するIT企業はそれほど球団運営にお金を出さないと見ていました。同じ理由で堀江さん率いるライブドアが新聞社を傘下に収めても、紙媒体を守らないのではないかと思っていました。実際には三木谷さん(浩史・楽天会長兼社長)も孫さん(正義・ソフトバンク会長)もチームを強化して優勝させているのですが…。

作中では「記者の顔が見える主観重視の記事」「横書きの誌面」など誌面改革案が登場しています。これは本城さんが考える新聞の生き残り策なのでしょうか。

講談社から今年10月26日に発行された本城雅人氏の最新刊「紙の城

本城:これらは実際に私がいた職場でも議論になりました。かつて団塊世代が大量に退職する2007年に備えていた2002~2003年頃です。実際には定年を迎えても再雇用などで働き続ける人が多く、団塊世代が急に新聞を読まなくなるという事態は起きませんでした。ただ、社内の危機感は強かった。「うちの新聞は変わりました」と表明するために横書きに変更するぐらいの覚悟を見せても良いのではと私は思っていましたが…。

 そんな中で(紙媒体より先にウェブで記事を発表する)「ウェブファースト」という考え方はよく話題になりました。私は2001年の米同時多発テロ事件の際に米国にいましたが、現地の新聞は特ダネをどんどんウェブに載せていました。もしその段階で日本の大手新聞社がウェブファーストに舵を切っていたらどうなっていたか。新聞社が敗北したとは思いませんが、あの頃に勝てるチャンスを取りこぼしたのは確かでしょう。

 先月の米大統領選でもたくさんの人がインターネットにアクセスしていました。様々な人が情報を発信していても、一次情報までたどると新聞社の記者による記事ということが多かった。今は新聞社が「Yahoo!」などに転載されることを期待して、記事を出しています。でもまだ挽回のチャンスはあると思います。オリジナルの記事を出しているのは新聞記者なんですから。