2005年に起きたライブドアによるニッポン放送買収騒動。作家、本城雅人氏は当時、渦中のフジサンケイグループで「サンケイスポーツ」の記者だった。その体験を生かし、最新作『紙の城』(講談社)を書き上げた。舞台はまさにIT企業に買収宣告を受ける新聞社だ。紙の新聞とウェブサイトはいかに共存していくのか。ワークライフバランスが叫ばれる時代において、新聞記者という仕事はどうなっていくのか。元記者として、新聞業界のタブーにまで切り込んだ真意を尋ねた。

聞き手は上木 貴博

最新作『紙の城』では新聞社の買収攻防戦を現場記者の視線で描いています。執筆の動機は。

本城:本作で書きたかったのは、会社組織としての新聞社です。前作『ミッドナイト・ジャーナル』(講談社)では記者一人ひとりにフォーカスしましたが、今回は新聞社という会社の独特の雰囲気や一体感を取り上げたかった。新興のIT企業に買収されそうになるという設定は、反目し合っている部署や記者たちが共通の目的の下に、一丸となっていく瞬間を書くためのものです。

本城雅人(ほんじょう・まさと)氏
1965年神奈川県生まれ。明治学院大学卒業後、産業経済新聞社に入社。産経新聞浦和総局を経て、サンケイスポーツ記者。退職後の2009年に『ノーバディノウズ』が松本清張賞候補となる。代表作に『球界消滅』『サイレントステップ』『誉れ高き勇敢なブルーよ』などがある(写真:稲垣 純也)

本城:考えてみれば、新聞記者は変わった仕事です。事件現場や記者クラブでは、毎日のように競合他紙の同業者と顔を合わせます。商店街の店主同士ならともかく、金融業や製造業ではライバル社員の顔なんて普通は知りません。顔見知りのライバルを相手にスクープを抜いたり、抜かれたりする部分はスポーツに似ているなと思います。

 新聞記者は会社に対する帰属意識が高いわけでもないのに、辛い仕事をついつい頑張ってしまう人たちです。それはジャーナリズムという使命感もあるのでしょうが、仕事に酔ってしまう瞬間が理由だと思います。

 執筆にあたり、新聞社の取り上げ方には注意しました。私自身、記者に憧れて新聞社に入って20年間も働きました。今も毎日、紙の新聞を読んでいます。とは言え、近年では新聞というメディアのあり方に世間は批判的です。だから、新聞社の社会的な役割や重要性を持ち上げ過ぎないようにしました。そこを前面に出すと、世の中全体の感覚から外れてしまうだろうなと感じたからです。

 作中に「押し紙(一部の新聞社による販売店に実際の販売部数を上回る予備紙を買い取らせる商習慣)」や「降版協定(過度なスクープ競争を避けるため、一定の時間が過ぎたら新しいニュースを記事にしない協定)」「新聞の軽減税率適用」など新聞業界の人が眉をひそめるような話も盛り込み、(新聞社の株式買収を制限する)「日刊新聞法」にある程度守られてきたという側面も書きました。その上で、新聞社は今後も残っていくべきなのかどうかを問いかけたかったんです。