
経営改革を当事者の視点で追体験できる『戦略プロフェッショナル』『経営パワーの危機』『V字回復の経営』。いずれも、経営者やコンサルタントの必読書として根強い人気を持つ。
著者はミスミグループ本社取締役会議長の三枝匡氏。1980年代から企業再建の専門家として活躍。リアルな描写は、その実体験に裏付けられている。「もう書かないかなと思っていた」と本人が語るように、3部作を発表した後は同社でのCEO(最高経営責任者)職に専念してきた。15年ぶりの新著『ザ・会社改造 340人からグローバル1万人企業へ』は経営者としての一つの集大成だ。
(聞き手は上木貴博)
15年ぶりの新著となる本書を執筆された動機や狙い、最も伝えたいテーマはどのようなものでしょうか。

三枝匡氏(以下、三枝):これまで書いた3冊は私の実体験を基にした事業再生の物語です。いずれも“病気”の事業部門を1~2年という短期間で建て直すというパターンでした。
ただ、3冊目の『V字回復の経営』を書き上げた後に私はミスミ(現ミスミグループ本社)の経営を引き受け、CEOを2年前まで約12年間務めてきました。就任時点でミスミは収益性も成長性も上場企業として悪くありませんでしたが、「再生」というよりタイトルにある「改造」が必要でした。そのため、長い時間をかけて本書に書いた8つの改革を行い、会社をまったく別の生き物に変身させていったのです。私自身が主人公のモデルという点は共通していますが、過去の作品とは異なるタイプの物語を描こうと思いました。
また、私は「ターンアラウンド・スペシャリスト(事業再生の専門家)」として1980年代から活動してきた中で、日本企業における経営人材の枯渇を目の当たりにしてきました。だから、ミスミでのCEO就任時から「経営者人材の育成」を自分の果たすべき社会的役割と考えていました。新作も含め本を書くこと自体、そうした思いによるものです。
経営者人材と言えば、社外から「プロの経営者」を招く事例が増えています。プロ経営者の先駆けである三枝さんは、こうした状況をどう見ていますか。
三枝:プロの定義に「経営技量の汎用性」があると常々考えています。例えば、一流のプロ野球選手は移籍先でもすぐに結果を出します。もちろん、野球と経営は違います。経営者がアグレッシブに改革を断行するほど、「死の谷」が目の前に現れます。
いくつもの会社で経営者として様々な死の谷を乗り越えた人こそプロの経営者でしょう。たとえ1社だけの経営経験でも、長期にわたって激しい環境の変化にもまれてきた人ならプロと呼べるかもしれません。米ゼネラル・エレクトリック(GE)を率いたジャック・ウェルチ氏のようなタイプですね。
にもかかわらずマスコミは、生え抜きではなく外部から招聘された経営人材を安易に「プロ」と呼んでしまう傾向があります。その人が成果を出せれば良いでしょうが、失敗したら今度は一気に批判に転じます。こうなると「プロの経営者」がどこか胡散臭い仕事だと思われてしまう。その風潮を危惧しています。
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