経営陣が本気でついたウソは見抜けるのか

小笠原:東芝の社長選びを正常化するためにどんな手が打てるのか。日本ではこれまで、社外取締役がメーンとなる指名委員会がベストプラクティスの一つとされていました。けれども、それが失敗したのだとすれば次はどうすればいいんですか、と思ってしまいますよね。昔のようにまた相談役に選んでもらうのでしょうか。

江上:一般的には、社外取締役が企業統治の核だなどと言われていますけれど、僕は絶対に違うと思っています。例えば執行側のCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)が書類やデータでウソをついたら、社外取締役はなかなか見抜けません。(東芝の監査を担っていた)新日本監査法人だって騙されたと言っているわけですから。

 社長や会長などの人選だって、社内の人脈もないわけですから、社外取締役には十分には理解できません。基本的には、執行側が推薦する人材の中から、「この人が社長にふさわしい」と選ぶわけです。候補者それぞれに瑕疵があったとしても、瑕疵というマイナス点と社長にした後のプラス点を両方視野に入れて、「この人かな」と考えるわけです。社外取締役が「ほかにいないのか」と聞いても、執行側が「ほかにいません」と言えば、その中から選ぶしかない、というのが実情でしょう。

江上さんの最新作『病巣』の中でも、CEOではない相談役などの立場の人間が、現実には隠然たる力を持っていました。東芝に限らず、日本企業の中でもそんなところは珍しくはないように感じます。企業統治の問題について、日本はあまり前進していないのでしょうか。

江上:そんな感じがしますね。どうしたらいいのかは、よく分かりません。ただ少なくとも第一勧銀の総会屋事件の時には、相談役が6人いましたが、全員に退任してもらいました。僕がお願いに行ったのですが、皆さん素直に「悪かったな」とおっしゃって退任された。それで相談役制度を廃止したわけです。

 ただ事件が発覚するまでは、頭取が相談役のところに人事の相談に行っていました。どうして私の目の前でそんなことをするのかなと思いましたけれど、そもそも彼らには私の存在など眼中に入っていなかったのでしょう。単なる本部の広報でしたから。当時は本当に、頭取が相談役にぺこぺことしていたんです。

 そう考えると、企業統治というのは本当に難しいですよね。やはり本田宗一郎さんのように、ぱっと辞めて新しい人に任せて、次を託された人が、もう1度会社を新しくしていく方が偉いと思います。それなのに、なぜかみんな残りたがる…。

 私は、執行役員制度も日本の企業を悪くしたのではないかと感じています。取締役はやせても枯れても株主総会で選ばれます。かつては取締役が多すぎるから意思決定が遅くなるなどと言われましたが、それでも逆らおうと思えば、逆らえるわけです。代表取締役と取締役は一応、株主総会において同じ立場ですから。「俺を辞めさせたいとしても、絶対に俺は辞めない。株主総会で俺を辞めさせるか、株主に諮ってくれ」と主張することだって、本来ならばできるわけです。

 けれど、執行役員といろいろ話をしていると、ある時に「俺は雇われ人だから」と言われたんですね。執行役員は1年限りの雇われ人だ、と。「一切ミスせずに上りつめて執行役に就いたら、1年契約の非正規社員になった」って嘆いているんです。それで業績が悪ければクビになる。だから必死で業績を上げようとするのだそうです。難しいですよね。

問われる監査の仕事

執行役員や社外取締役、カンパニー制など、日本企業はいろいろな新しい仕組みを導入しているけれど、問題の本質はあまり変わっていないようにも見えます。

江上:小笠原さんも分かっていらっしゃると思うけれど、やはり社外取締役を選ぶのも、例えば今の政府の内閣審議委員や顧問などを選ぶのも、「クローニー」(茶飲み友達の意味)と言いますか、縁故っぽいですよね。

小笠原:東芝に関して言えば、社外取締役のメンバーを決めたのは、東芝の相談役だった西室泰三さんだと言われていますからね。

江上:友達関係などの縁故ばかりで、それでどうしようもなければ、弁護士や検事といった専門家にお願いするという話ばかりですよ。「自分の会社をどうしたいのか」という観点なしに社外取締役を選ぶから問題なのではないでしょうか。本来は社外取締役の中に、消費者代表やマスコミ代表の人物がいたっていいわけです。

 第一勧銀で総会屋事件が起きた時、頭取が一人で暴走するのを止められる組織にしなくてはならないと、ある種の委員会制を設けました。監査委員会を作って、監査委員には当時一緒に事件に対応してくださった弁護士の先生に就いてもらいました。別に日本の大蔵省は気にしてなかったけれど、FRB(米連邦準備理事会)に、どんなチェック体制を設けたのか説明しなくてはならなかったからです。

 監査委員会を設けると、しばらくの間は監査委員の先生から色々な意見が出てきていました。けれど、事件が収束して私が別のポストに就いた時、監査委員長に呼ばれたんです。何かと思ったら、「最近、情報が入ってこないんだ」とおっしゃる。

 監査委員の皆さんは、使命感を持って選ばれたわけです。この銀行をいい銀行にしなくちゃいけないと思ってチェックをしてきた。そして執行側が経営案件を打診すると、いろいろと細かく聞くわけです。すると、執行側は段々うるさく感じるようになったのでしょうね、少しずつ、情報を入れなくなっていた。当時の監査委員長は「何とか言ってよ」と嘆いていらっしゃいましたが、確かに経営側からすればうるさい存在にはなるわけです。経営案件にいちいち口を出されたら、つい「素人が」と思ってしまう部分もあるでしょうからね。