日経ビジネスは2015年4月から東芝の問題に注目し、特別班を編成して取材を進め、その成果を『東芝 粉飾の原点 内部告発が暴いた闇』(筆者は小笠原啓)をまとめた。

 一方、作家の江上剛氏は最新刊『病巣 巨大電機産業が消滅する日』で、東芝の「不正会計問題」に着想を得、日本を代表する巨大電機メーカー・芝河電機を舞台に繰り広げられる粉飾決算の裏側を描いた。芝河電機の危機的な状況を目の当たりにした主人公の瀬川大輔ら30代後半の中堅社員たちは、何を感じ、どのように行動したのか。

 異なる視点とアプローチで東芝問題に取り組んだ2人が対談。フィクションとノンフィクションの両側から考える「東芝崩壊」と「その先にあるもの」とは。


(構成は日経ビジネス編集部)

2017年6月に最新刊『病巣 巨大電機産業が消滅する日』を上梓した作家の江上剛氏(左)と、2016年に『東芝 粉飾の原点』を書いた日経ビジネス副編集長の小笠原啓(撮影:竹井 俊晴、ほかも同じ)
2017年6月に最新刊『病巣 巨大電機産業が消滅する日』を上梓した作家の江上剛氏(左)と、2016年に『東芝 粉飾の原点』を書いた日経ビジネス副編集長の小笠原啓(撮影:竹井 俊晴、ほかも同じ)

「グレーなのは分かっているけれど…」

江上:東芝の歴代トップの人たちは今も表には出てきません。何をしているんでしょうか。

小笠原:今は株主などに提訴されて、民事訴訟中ですね。東芝も元役員5人に損害賠償請求しています。

江上:今の社長の綱川智さんは、どういうキャリアの方なのでしょう。

小笠原:綱川社長は2016年にキヤノンに売却された、東芝メディカルシステムズの出身です。一連の粉飾には関わっていないとされています。

江上:きっとキャリアチェックして選んだのでしょうね。どこから突っ込まれるか分かりませんし、「新しい社長はバイセル取引の元凶だ」なんて言われたらもう大変でしょう。問題を把握していない人が選ばれたんでしょう。

小笠原:綱川さんが社長に就いてから一度だけ報道陣の囲み取材がありましたが、原発に関しては任せているから、と言っていました。

これは前編(「東芝の粉飾決算は第一勧銀の総会屋事件と同じ」)で江上さんが指摘したように、カンパニー制の弊害でしょうか。

小笠原:それもありますし、やはり東芝が買収した米原子力会社ウエスチングハウス(WH)が“独立国”だったんです。だから情報が出てこない。ある人は、WHのことを太平洋戦争時代の関東軍に例えていました。日本の本社からは全く制御できず、海外で勝手に戦線を広げて赤字を拡大していたからです。それを率いていたのが、東芝の前会長の志賀重範さんです。

 普通に考えればそんな人物が会長に就けるはずはありません。けれどもなぜか会長に就いてしまった。社外取締役らで構成する指名委員会によって、志賀さんが会長に選出されたからです。

 なぜ志賀さんなのか。記者会見で聞いてみると、「(志賀さんが)グレーなのは分かっているけれど、原発をやる以上この人しかいない」と指名委員会は説明する。そうなってしまうと…もうこの会社はちゃんとした人事ができるのだろうかと思ってしまいます。

江上:指名委員会も大きい責任があるでしょうね。「証拠隠滅のために君をこのポストに就けたよと」ということになってしまいかねません。

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