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「東芝はいまだ制御不能」

経営陣は変わりましたか。

小笠原:まだ制御不能の状態です。東芝は2015年7月に歴代3社長を筆頭に、多くの取締役が引責辞任し、今では社外取締役が過半数を占める体制になりました。「ガバナンスを刷新した」と東芝は言うけれど、結局、状況はさらにひどくなっている。そう考えると、「病巣」は経営トップだけでなくもっと根深いところにあったんじゃないか、と思っています。

江上:ただ小笠原さんのところに告発に来た人たちは、まだ社内にいるわけでしょう。今も残っている社員の中に、これから東芝を再生していこうという情熱を持っている人はいないんですか。

小笠原:いるとは思いますが、私の知り合いでは、限界を感じて辞めていく人が多いですね。

江上:それなら難しいかもしれないですね。やはり社員が一つにならないと再建は難しい。

米原子力会社の買収で感じた経営トップの“欲”

江上:僕は小説の中で、東芝をモチーフにした芝河電機が米原子力会社を買収したのは、当時の原発推進という国策に乗ったと書いています。実際に東芝もそうだったのではないでしょうか。

小笠原:そうでしょうね。2005~06年を振り返るとそういう風潮でした。

江上:ただ、それでも3000億円程度の価値しかない企業を約6300億円で買うというのは、小説で描いたように、当時の経営トップの個人的な“欲”があったのではないかという気がします。「名門企業の東芝で、自分は名門経営者にならなくてはならない」というような。米ウエスチングハウス(WH)の買収には、ライバルの三菱重工業も日立も手を挙げていたかもしれません。けれど「この価格じゃ買えない」とそれなりの合理的な判断を下した。

小笠原:本当に買収額が合理的だったかどうかは分からないです。ただ2016年にようやく、約2500億円ののれんの減損をして、初めて経営の失敗を認めました。

江上:「東芝が潰れたら半導体メモリーなどの日本の技術が海外に流出する」とも報じられてきました。けれど彼らの技術が、そこまで保護しなければならないほど優位性のあるものだと説明する記事はあまり見かけません。ひょっとしたら、もう古びているかもしれないのに。

 そう思うと、東芝に対するメディアの追及はもっと厳しくてもいいと思います。少なくとも第一勧銀の時には、メディアの厳しい追及があって、事態が深刻だと教えてくれたから、僕たちは動くことができた。そして動けたから、ぎりぎりのところで破綻が免れたわけです。

この先、どこまでの粉飾決算ならば“許される”のか

小笠原:やはり大切なのは、経営者が粉飾をした場合に刑事罰を受けるべきかどうかという点ではないでしょうか。刑事罰を受けると、実際に不正を促す命令に従ってきた社員も、「これは間違っていたんだ」と分かる。「逮捕しろ、逮捕しろ」と言うわけではありませんが、やはり一定のルールは必要です。そうでなければ司法がないがしろにされてしまいます。

江上:東芝が粉飾決算で利用した「バイセル取引」は一般的な取引かもしれませんけれど、ここまでやってしまったら間違いなく不正です。

小笠原:それで証券取引等監視委員会は、「まかりならん」と検察に持っていっているわけですからね。

江上:実際に損をしている株主や取引先もあるわけですしね。司法はその能力を失っているのかもしれませんね。

小笠原:能力なのか、意思なのか…。「意思」を失っているとすると、これは非常に厄介です。7年間で2000億円の粉飾決算に手を染めた東芝を立件できないのであれば、これから先、例えば3年間で200億円の粉飾決算などが発覚した場合、どんな判断が下されるのか。5年後、10年後、「どこまで粉飾決算は許されるんですか」という線引きができてしまうことになりかねません。

江上:証券取引等監視委員会と東京地検の間でせめぎ合いがあって、証券取引等監視委員会の方は事件化したいけれど、東京地検が「事件にならない」と言っているという話が伝わってきています。あれはどういうことなのでしょうか。

小笠原:証券取引等監視委員会は、バイセル取引が粉飾決算の本丸だと思っている。けれど検察は、実際にモノが動いているのだから犯罪の要件にはならないと言っているらしいですね。

 ただモノが動いていたとしても、3月31日と4月1日とか、期ずれを利用して粉飾しているわけです。それを認めてしまったらもう…。外野の人たちは、「100%有罪にできないから東京地検は動かない」などと説明しています。けれど仮に100%有罪にできなかったとしても、悪事を撲滅するために努力するのが税金で食べている人の仕事なんじゃないでしょうか。

 問題が発覚してもう2年以上経ちました。極端なことを言えば、証拠隠滅の機会を与えていたとも捉えられかねません。例えばメールに証拠が残っているなら、それはパソコンを買い換えたらなくなってしまいます。それを見逃すのは「不作為の罪」になりかねないと私は思うんです。

(後編に続く)