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「社員が腐っていなければ何とかなる」

江上:私は、過去に企業再建などを手掛けてきた経験から、たとえ会社が腐ってしまっても、社員が腐っていなければ何とかなると思っているんです。経営トップやその周りの忖度族が腐っていても、核になる社員はちゃんといる。そうした人物を主人公にして、若手の目から小説を描きました。

 『病巣』では、主人公やその仲間が、会長秘書や社長にかわいがられる若手として、それぞれ時代遅れな経営者の背中を見ています。経営トップは腐っているけれど、それをおかしいと感じる若手がいれば、少しは救いのある小説になるんじゃないかと思ったんです。

東芝の「病巣」はどこにある?

小笠原啓(以下、小笠原):江上さんの『病巣』を読んで、やはりフィクションの方がよく伝わるなと感じました。東芝の不正会計を巡る問題の本質がすとんと頭に入ってくる。小説になると、キャラクターがよりビビッドに立って、会社の問題点が鮮明に見えてきた。

 今回の問題は社長だけでも歴代の4~5人が関わっていて、その下の幹部も含めると、関係者は非常に多い。ノンフィクションで描くとどうしても話が複雑になりがちです。その点、小説では特定の人物にスポットライトを当てて物語が進むので非常に分かりやすかったですね。

東芝の不正会計問題を暴いた日経ビジネスの『東芝 粉飾の原点』(右)と、東芝をモチーフにした江上剛氏の最新刊『病巣 巨大電機産業が消滅する日』(左)

江上:執筆中は小笠原さんの『東芝 粉飾の原点』をはじめ、様々な東芝本や第三者委員会の調査報告書を読んだり、関係者にインタビューをしたりして情報を集めました。その中で気付いたのが、これは日本企業や日本社会全体の問題である、ということです。

 小笠原さんの本の中でも、事件が明るみに出てからは内部告発がどんどん寄せられたと書かれています。私は第一勧銀の総会屋事件が起こった時は広報部次長でしたが、事件が明るみに出た後で、大手新聞社の方から「うちに段ボール箱一杯の告発文が届いているよ」と教えてもらったことがあるんです。当時は電子メールもない時代ですから、告発文は直筆の手紙ばかり。時には新聞社のオフィスに直接訪れて告発をする人もいたそうです。

 それくらい、みんな告発したくてしょうがなかった。きっと現場社員は何かおかしいと思っていたのでしょう。社員の方が正常な意識を持っていた。東芝社内にも、同じように経営陣のやり方に疑問を抱いていた社員がたくさんいたのではないでしょうか。

小笠原:問題意識がないと、内部告発というアクションは起こさないですからね。

 ただ一方で、実際には同調圧力のようなものに流されて業務に当たっている人がほとんどなのではないかとも感じています。だから上司から「チャレンジしろ」と命令されれば、簡単に数字を書き換えてしまう。疑問を抱かないんです。上司に「明日までに何億円を作れ」と言われて、その通りにやっていた。

 東芝の最大の問題が経営トップだったことは間違いありません。ただ同時に、間違った上司の命令に、疑問を抱かずに従ってしまうところにも、東芝の「病巣」があるように感じています。そうした社員や幹部が残っているから今も復活できていないのではないでしょうか。