日経ビジネスは2015年4月から東芝の問題に注目し、特別班を編成して取材を進め、その成果を『東芝 粉飾の原点』(筆者は小笠原啓)をまとめた。
一方、作家の江上剛氏は最新刊『病巣 巨大電機産業が消滅する日』で、東芝の「不正会計問題」に着想を得、日本を代表する巨大電機メーカー・芝河電機を舞台に繰り広げられる粉飾決算の裏側を描いた。芝河電機の危機的な状況を目の当たりにした主人公の瀬川大輔ら30代後半の中堅社員たちは、何を感じ、どのように行動したのか。
異なる視点とアプローチで東芝問題に取り組んだ2人が対談。フィクションとノンフィクションの両側から考える「東芝崩壊」と「その先にあるもの」とは。
(構成は日経ビジネス編集部)

「第一勧銀の総会屋事件とまるで同じ」
江上さんはこれまで、小説という形で企業の栄枯盛衰や経済事件を多数描いてきました。今回の最新作『病巣 巨大電機産業が消滅する日』のモデルは東芝とみられますが、これまで描いてきた企業と何が共通していて、何が異なっていたのでしょう。
江上剛(以下、江上):私はタイトルが思い浮かぶと、割と小説を書きやすいタイプなんです。次に何を書こうか考えていた時、ちょうど東芝の不正会計問題が話題になっていました。興味を持って報道資料などを読んでいて、私が経験した第一勧業銀行の総会屋事件と同じような印象を受けたんですね。
かつて第一勧銀では、何十年にも渡って、歴代のトップから現場の人間まで、「これも仕事の一環だ」という感じで総会屋対策に当たっていました。社外から「これは問題だ」と指摘されるまで、それが大きな問題だと気づくことができなかった。当時の様子と東芝の不正会計問題は、私の目にはそっくりに映ったんです。
どちらの事件も、上司が明確に「罪を犯せ」と指示したわけではありません。現場の社員は自分の意思を働かせながら不正に手を染めていった。2つの事件に共通点があるなら、私はこの問題について非常にシンパシーを持って描くことができると思いました。
同時に、今回の事件の発端は内部告発でした。それは小笠原さんの『東芝 粉飾の原点』でも書かれていますし、ほかの関係者からも同じような話を聞きました。東芝社員が金融庁に電話をかけて実際にいろいろな資料を持ってきた、と。きっと内部告発をした本人は、これほど大きな事件に発展するとは思っていなかったはずです。
東芝はほかの日本企業に先んじてカンパニー制の導入や委員会設置会社への移行を進めてきました。そういう意味では、事件が発覚するまで、東芝は新しい会社のモデルのように見られていたわけです。そして、彼らの仕組みは現代の日本企業にとって良いシステムとされてきた。
けれど結局は、社内カンパニー制によってそれぞれがタコツボ化し、「隣は何をする人ぞ」となっていた。内部告発した東芝社員も、まさかほかの部門も同じようなことをやっているとは思ってなかったはずです。これもかつての第一勧銀と似ていました。私が銀行員だった頃も「隣は何をする人ぞ」みたいなところがあったんです。

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