『怖い絵』シリーズなどで知られる作家、中野京子氏。同シリーズをテーマにした展覧会では、展示方法の工夫などによって集客を伸ばし、大きな注目を集めた。このほど『美貌のひと』を発表した中野氏に「怖い絵」展ヒットの理由、絵の楽しみ方などについて聞いた。
(聞き手は中沢康彦)

北海道生まれ。 早稲田大学大学院修士課程修了。 ドイツ文学者、西洋文化史家、翻訳家。著書に「名画の謎」シリーズ、「怖い絵」シリーズなど多数
ベストセラー「怖い絵」シリーズで紹介された作品などを展示した展覧会は、関西、東京あわせて68万人を越える来場者を集めました。
中野:展示した絵は基本的にはみた目が怖いわけではありませんでした。むしろ、歴史的、文化的な背景から実は怖いシーンであったなど、いろいろな意味での怖さがある絵を展示しました。このため、絵についてしっかり知ってもらう必要があり、それぞれに長い解説をつけ、音声ガイドの文章も書き下ろしました。
怖い絵というテーマ設定だけだったら、「それほど怖くない」で終わったかもしれません。あれだけたくさんの方が来場したのは、絵を「よむ」面白さ、楽しみ方に気づいたからだと思います。
「今まで絵は興味なかったけれども、絵について知ったら面白い」と口コミで広がり、来場者が増えていきました。私もこれほど集まるとは思いませんでしたが、老若男女が来てくれました。
展示した絵のうち、ポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は日本初公開となりました。この絵については実は夏目漱石が「倫敦塔」という作品で記しています。
本を一回読んだだけではそのことは覚えていないかもしれません。しかし、絵を前にそのことを知ったなら、読んだこととみたことがすんなりつながります。ロンドン塔に行ったことがあれば、さらにつながってきます。絵の背景を知ることによって、いろいろなことがつながる面白さもあると思います。
「怖い絵」だけでなく、絵画の見方についてのエッセイを多数発表してきました。
中野:日本の美術教育は「絵は感じなさい。みて感じればいい」という教え方でしたし、私もそう習いました。
しかし、印象派以前の絵にはそもそも意味があり、物語があります。みて感じなさいというのは間違いであり、そうではないと伝えたいとずっと思ってきました。そして、絵の持つ意味を知ったほうが面白い、ということを知らせたいと考えました。
何よりも、人は意外と「みていない」のです。
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