(前回から読む)
若手社会起業家の安部敏樹さんと、ジャーナリストの津田大介さんに、「若者がどう行動すれば社会を変えていけるか」というテーマでお話をしてもらったところ、前回の結論は、「社会問題に取り組んでいるヤツがモテるような空気を作る」でした。
安部:重要なことです(笑)。
津田:安部さんが主催している「R-SIC(アールシック)」というイベントも、そういうスタンスでやっているんですよね。
安部:日本で唯一の社会起業家向けカンファレンスをうたっています。ソーシャルビジネスの経営ノウハウを共有することがイベントの目的なんですが、パーティはかっこよくやろうと思っています(笑)。
津田:R-SICは今年、つくばで開催して僕もフル参加しました。いやー、密度が濃くて楽しい2日間でした。
安部:津田さんには2日目の「教育」をテーマにしたパネルディスカッションのモデレーターをお願いしました。1日目のスタディツアーは「動物の殺処分」のテーマに行かれましたね。
津田:そうそう。特にスタディツアーには感心しました。バス10台ぐらいに分乗して、それぞれいろいろな社会問題の“現場”へ行った。よく10個もツアーを企画して、並行して進めるとか、あんなにややこしい運営ができるなと思いました。
安部:うちのスタッフ、優秀なんですよ。

安部さんが代表を務める「リディラバ」は、ボランティアがかつて600人もいて、それぞれ自発的に活動できるようになっていたと前回聞きました。
津田:リディラバが起こしたイノベーションとは何なのかを、順を追って聞いてみたいですね。僕は安部さんと付き合いが長いからそこそこ知ってますけど、元々安部さんは中学生のときに家庭で事件を起こして、家を出ちゃったんですよね。それがリディラバの発端になった?
安部:そこから話を始めるんですか(笑)。
津田:せっかくリディラバの成り立ちを振り返るわけですから、この場を借りてまずお母さんにちゃんと謝るところから始めるのがいいんじゃないですか(笑)。
安部:その節は本当にすみませんでした。大変反省しています。……という言葉では伝えられない感情も自分の中にはありますが(笑)。そのとき、路上で生活したり、学校に行かなくなったり、同じように家に帰らないヤツらでつるんだりした経験があったので、大学生になってから社会問題に関心を持つようになったんです。
津田:なるほど。自分が「非行」という社会問題の当事者だったと。
安部:それから東大に入って、有名な川人博さんのゼミに参加したら、そこでショックを受けました。川人さんは、社会活動家としても知られる弁護士で、人権問題の現場に行く機会をくれました。そこで、自分と同じようなことで悩んでいる人をたくさん見ました。あと、ゼミで印象に残っているのは、川人さんの「ノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)」についての話です。
津田:それはすごい。さすが東大ですね。

安部:東大は誰のためにあるか。君たちには大量に税金が投資されているから、強い責任感を持って動かなくてはならない、と。なるほど、と思ったけれども、「だったら、オレが中学生のとき、東大生のヤツは誰も救ってくれなかった。どんな大人も、声かけてくれなかった。高貴なる義務なんて、きれいごとじゃないか」って心の中では毒づいていた。そのゼミは300人ぐらいの大所帯だったんだけど、そのうち社会的な活動を続ける人なんて、結局ほとんどいないじゃないかって。
津田:なるほど。当時から生意気な学生だったわけですね(笑)。でも、川人ゼミって、社会起業家やNPOなどの人材をたくさん輩出していますよね。ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さんやYouthCreateというNPOの原田謙介さん、小布施若者会議の大宮透さんとか。
安部:そうなんですけど、ゼミの98%ぐらいは、普通に就職して大企業のサラリーマンになったり、官僚や弁護士になるじゃないですか。もちろん川人さんのことは尊敬していますけれど……。
津田:まあ、普通の人だったら、ノブレス・オブリージュなんかより、目の前にある自分の家族の生活が大事だと思いますよね。実際に食べていかなきゃ生活できないわけですし。

安部:人間ってそういうものだと思うんですよね。ノブレス・オブリージュって、フランスの貴族の考え方でしょう。貴族は死ぬまで貴族だけど、東大生だって、その後ずっと高貴でいられるわけじゃない。
津田:僕が若いころから抱えている問題意識って、「活動家」の人たちの考えや言葉って、どうしてちゃんと広く伝わらないのかな、っていうことなんです『ウェブで政治を動かす!』のあとがきにもそれは書いていますけど、実際の当事者は覚悟や責任感を持って活動しているのに、十分それが世間には伝わらない。なんでそんなにギャップあるんだろうなって思ってました。
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