構造問題とは要するにどういうことですか。

 政治や経済そして社会の構造が変わったにもかかわらず、労働や社会保障の構造がその変化に付いていけず、歪みが大きくなってしまったということです。

 構造変化に対応できない大きな理由として、しばしば指摘されています通り、いわゆる「日本型雇用慣行」の存在があります。本書では「メンバーシップ型雇用」と呼んでいます。これが高度経済成長時代の成功体験として根強く残っており、変化に応じた多様な働き方を結果として阻害しているわけです。

「順を追って、しかも一貫性のある改革」を進めるとのことですが、具体的にはどうなりますか。

 日本型雇用慣行の改革に加え、働ける方々の数を増やすこと、地方産業や中小企業を盛り立てて働く場を増やすことも進めなければなりません。本書では、人材・産業・雇用の一体改革と言っています。

 女性や高齢者で働きたい方々の希望をかなえる、それが突破口でしょう。女性活躍に関して言えば、託児所の問題もありますし、被用者保険の適用基準や所得税控除、配偶者手当てといった社会保障や税制について見直す必要があります。

 増える働き手の多くはパートタイマーになると思われますので、正社員との役割分担や所得格差といった問題への対処、労働法規違反を防ぐ監督体制の拡充、などを進めることになります。今、同一労働同一賃金を議論しているのは不合理な格差を是正するためです。政府や自民党内で議論を進めていますし、私も積極的に発言し、提言を書いています。

構造問題の中心に日本型雇用慣行があるとのことですが、長所があるから日本型は長続きしてきたのではないですか。

 それはその通りです。勉強会ではメンバーシップ型雇用のデメリットだけではなくメリットについても意見交換をしてきました。本書の中でもデメリットとメリットの双方について詳しく記述しています。

 格差といった場合、同一企業グループ内の正規雇用・非正規雇用の格差だけではなく、元請け・下請けの格差、地域間賃金格差、雇用者と個人請負の格差など、色々あります。これらを一切合切、欧米型の仕組みに変えたら、大変な混乱が生じるでしょうし、日本の競争力をかえってそぐことになりかねません。簡単ではありませんが、日本の雇用や労働の良い部分を残しつつ、不合理や不公平を一つひとつ是正していくことになります。

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