手嶋:CIAの副長官は、飯島さんにこう持ちかけました。「あなたを男と見込んで、見ただけで目が潰れちゃいそうな極秘情報をお見せしましょう」って。そう来られたら、誰だって感激します。それで飯島さんも、アメリカ側にまんまと取り込まれてしまった。

池上:今の手嶋さんの話を解説しますと、だから日本も自前のインテリジェンス要員を充実させるべきだ、ということです。

手嶋:その通りです。

それは現在、問題となっている特定秘密保護法とも関係のある話なのでしょうか。

池上:本質的なところは、日本は自らの独自情報を持つのかどうか、ということであって、秘密保護法があるからインテリジェンスへの意識や能力が促進される、ということではありません。

南スーダンと森友事件に見る共通項

手嶋:日本は現行法の下でも、ある種の情報コントロールがなされている国です。いい例が防衛省の南スーダンPKOの日報事件ですよ。内部の人間というものは、たとえば情報の開示請求があった段階で、アブナイものを全部消してしまおうとする。

 防衛省で言うなら、外交機密、防衛機密がある、と外に分かってしまうと、整合性の観点から、それを国会答弁のような公の場でも言わなければならなくなります。だから「ない」ことにする。

なるほど…。

手嶋:一連の森友学園の問題もそうです。不明瞭な経緯はあるけれど、それは公には言えない。じゃあ、あることを、ないようにするためには、どうすればいいか。情報開示の前段階で、記録をシュレッダーにかけて、消してしまう。実に姑息であり、これは誠に国家的な犯罪ということができます。

池上:手嶋さんは、そのことをずっと言い続けていますよね。『ウルトラ・ダラー』(2007年)の中では、フィクションの登場人物の口を借りて、激しく批判をしています。

手嶋:日本の官僚たちは、日米安保に関する文書の研究会なるものを作って、情報の開示請求に先手を打って、機密文書を処分していったのです。核持ち込み時の機密文書などがその典型です。ああいう文書は、戦後の日本外交のエッセンスなのです。にもかかわらず、官僚たちは「残しておくとあぶない」と判断し、地上から歴史の第一級資料を抹殺していった。官僚としてもっとも恥ずべき犯罪です。どの書類をシュレッダーにかけるか、ということを、官僚に決めさせてはなりません。

池上:森友学園の問題も、財務省に記録がないなんてあり得ないですよ。国有地をヤバい形で売却する場合、役人は自己保身のために必ず記録を取っているはずです。

縄張り争いで瓦解した日本のインテリジェンス

手嶋:無理やりに対談のテーマにこじつけると、そのあたりにも日本の情報に対する怠慢、そしてインテリジェンスの感度のなさが表れているんです。

 歴史を振り返ってみると、戦前は陸軍中野学校と外務省が諜報の縄張り争いをして、たこつぼ化に陥りました。そのあたりから、もうおかしくなっています。 

池上:日本のインテリジェンスは中野学校が一大勢力だったわけですが、その陸軍にとって最大の敵は外国ではなくて、日本の海軍だった。そういうムラ社会の体質を、ずっとひきずっていますね。

世界のインテリジェンス地図で強い国といったらどこになるのでしょうか。

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池上:イスラエルのモサド、イギリスのMI6、中国国家安全部、パキスタンのISI、それからドイツ、ロシア、フランス、インド、といった諜報伝統国の存在感があります。トルコも同じトルコ系住民のいる中央アジアに関して精力的に情報収集をしています。

手嶋:アメリカについては、組織は大きいのですが、インテリジェンス大国とはいえません。アメリカは、たとえ情報が誤っていても、圧倒的な軍事力を持っているため、力で決着をつけることができる。イラク戦争がその悪しき例です。超大国は必ずしも情報大国にあらず。しかもアメリカの力は、あきらかに弱まっています。戦後の半世紀は、アメリカ頼みでも済みましたが、中国が海洋に競り出し、安全保障環境が変わった現在、日本もいまのままでは生き抜いていけません。

池上:いや、日本にとってインテリジェンスは喫緊の課題です。新しい体制を早く作らないとダメですよ。

(進行・構成:清野 由美)