何を目的に。
池上:世論工作ですね(笑)。
手嶋:でも、ぼくは、池上さんこそ最もインテリジェンス要員にふさわしいと思っているんです。なにもスパイになれと言っているわけじゃありませんが。
池上:なんですか、それは。
手嶋:公開情報を幅広く分析し、これはという情報の宝石、つまり貴重なインテリジェンスを見つけ出すことに秀でている、ということです。池上さんがかつて担当していた「週刊こどもニュース」は、本当にすぐれた情報番組でした。あの番組は、ワシントンでも見ることができたので、貴重な日本の情報分析として、いつも拝見していましたよ。
池上さんという人は、込み入った事象を前にすると、本能的に解説したくなる。そんな断ちがたい衝動を内に秘めていると、ぼくはNHK時代から睨んでいました。それは、ほとんどビョーキに近い才能なのですが。
池上:褒めているんですか。それとも、けなしているんですか。
ヒューミント要員育成という難題
手嶋:そんな池上さんは、日々、膨大な情報に接していると思うのですが、そこからどうやって真のニュースをつまみ出していますか。すこしは手の内を明かしてください。
池上:いや、いくら本を書いても、文字化できないものってあるでしょう。日々、何となくやっていることなんだけど、人に説明できないという。
手嶋:インテリジェンス活動で得る情報は、人間を介した情報の「ヒューミント」と、傍受情報の「シギント」に大別されますが、日本はとりわけヒューミント畑の人材育成が急務だと思います。

たとえば、その筋の人が池上さんと接触して、いろいろな素材を置いていく。そうすると、池上さんがそれに粉にまぶして発信する。それが、いわゆるリークであり、ヒューミント活動です。情報をもたらす人は、もたらした先が発信しないと、リークしてくれなくなります。人間関係の機微が関わることですが、実際、こちらが二度続けて記事にしなかったら、もうそれ以上のリークはないですからね。
そのような情報提供者とメディアの関係を知った上で言いたいのですが、日本はいまこそヒューミントに秀でた人材の育成が急務です。
日本はなぜヒューミントの育成が遅れているのでしょうか。
手嶋:どうしてか。それは、つまり、アメリカが、そういう能力を日本に持たせなかったからです。太平洋戦争が終わって、占領下に入ったときに、「日本の代わりに、アメリカがやってあげますよ」と、なってしまったんです。
池上:でもアメリカは、日本ではなくアメリカの国益のために、諜報活動をやっているわけですからね。
手嶋:先ほどお話した、イラク戦争の根拠となった、イラクの大量破壊兵器保有情報についていえば、当時の日本政府もCIAに騙されていたわけですよ。
池上:小泉内閣のときですね。
手嶋:日本との交渉には大抵、CIAの副長官がやってくる。それで、首相のそばでインテリジェンスをやっている人と話す。あのときは「官邸のラスプーチン」と呼ばれた飯島勲さんが、内閣総理大臣秘書官でした。
池上:佐藤優氏ではない、もう一人のラスプーチンですね。
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