
フリージャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。近著に『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(佐藤 優氏と共著、東洋経済新報社)『池上彰の「経済学」講義1 歴史編 戦後70年 世界経済の歩み』(角川文庫)『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』(竹内政明氏と共著、朝日新書)など。
池上:人はおもねるし、また反対にトップがおもねりを要求すれば、重要な情報が上に挙がらなくなる。トランプがCIAとのブリーフィングを「ばかばかしい」と公言して手を抜いているおかげで、大統領が情報不足の中で決断する、という大きなリスクが生まれています。
手嶋:温厚でやさしい池上さんですら、トランプ大統領にはこんなに厳しい。トランプ政権はある種の四面楚歌状態にあるといえますね。そうした危険な状況下で、トランプ政権は、北朝鮮に対していくつかの軍事的なオプションを検討しはじめています。
どんなものなのですか。
手嶋:アメリカが大がかりな地上軍を派遣すれば、文字通り第二次朝鮮戦争が勃発してしまいます。いまの段階ではその可能性は高くありません。武力衝突が起きるとすれば、外科手術的な空爆と、サイバー攻撃の二つが可能性として挙げられます。
池上:その二つのオプションのうち、サイバー攻撃は、あの国に対しては、あまり効き目がないんじゃないか、と言われています。
手嶋:そもそも、北朝鮮は情報系のインフラが整っていませんからね。
池上:何といったって、あそこはいまだに有線連絡の国ですからね。北朝鮮では本当に大事な伝達事項の場合は、伝令が走る。それが一番秘密を守ることになるから。
手嶋:アナクロな伝令が、いまの世界では実に有効で、サイバー攻撃には強い。まったく皮肉なことです。
池上:サイバー攻撃はそう効果がないとすると、巡航ミサイルのトマホークで、となるのですが、金正恩は地下深くに作った複数の建物を移動しながら暮らしているというので、バンカーバスター(地中貫通爆弾)でないと効果はないでしょう。でも、どこにいるか正確な情報がないと、ピンポイント攻撃もできません。
人気欲しさに決断する恐れも
手段はさておき、アメリカは本当に実力行使に踏み切るのでしょうか。
手嶋:最終的な決断はまだ下していないのでしょう。ただ、四面楚歌状態のトランプ大統領の心中を忖度すれば、北朝鮮を巡航ミサイルで攻撃したいという誘惑に駆られ始めているはずです。
池上:現在の北朝鮮が相手ということでしたら、民主党だって「これはダメだ」とは言いにくいでしょう。米軍の先制攻撃だけであれば、アメリカ議会の承認はいりませんし。
手嶋:我がニッポンだって、リベラルなメディアは「みんなで平和を祈りましょう」と社説では主張するかもしれません。でも本心では、日本への脅威が取り除かれて、安堵する向きもあるはずです。池上さんだって朝日新聞の"斜め読み"で手厳しい批判はしないでしょう。北朝鮮の核施設への攻撃に内外でそれほど厳しい批判は出ないはずだ、とトランプ政権は判断する可能性があるのです。
池上:むしろ人気取りに使えそう。
手嶋:となると、トランプ大統領はいよいよ伝家の宝刀を抜く誘惑に駆られても、おかしくはない。伝家の宝刀を抜けば、必ず支持率が跳ね上がることを、大統領は本能的に知っています。だから恐ろしいのです。
池上:国内の支持率を上げるために決断しそうですね。軍事介入のリスクとベネフィットなど、たいして考えもせずに。
手嶋:ぼくは二度にわたって十数年もNHKのワシントン特派員を務めたのですが、その間、おびただしい数の「力の行使」に付き合ってきました。確かに力を行使すれば必ず支持率は上昇しました。
池上:9.11のときも、ワシントンにいた。
手嶋:パナマ侵攻からグレナダ侵攻、第一次湾岸戦争、そしてイラク戦争と、伝家の宝刀をいとも簡単に抜く国家なのです。そして、いつ、いかなる場合でも、抜いた瞬間に、政権への支持率はぴーんと高まる。だからトランプ大統領は「やりたい」はずです。
話を少し変えまして、金正男の暗殺については、どうお考えでしょうか。
手嶋:あれは、オレオレ詐欺の類推が分かりやすい。
オレオレ詐欺?
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