手嶋:ロシアのプーチン大統領の指示のもとでハッキングをしたと指摘するなら、その証拠を挙げなければいけないのに、「プーチンの指示と“思われる”」という自信なげな書きぶりです。

池上:記者が自信のないときに、よく「逃げ」で使う手ですが、それですね(笑)。

手嶋:情報世界では簡単に証拠を挙げるわけにはいかないのです。証拠を明示すれば、どんな手段で情報を集めているか、情報源を危険にさらしてしまう側面もある。そこも分かった上で、プーチン大統領のような情報のプロから見ると「ふん、しゃらくさい」と無視して終わりでしょう。

池上:プーチンにとっては痛手でも何でもなく終わった。

手嶋:アメリカという国が、とにもかくにも民主主義のリーダーとして国際社会に認められてきたのは、大統領が公正で開かれた民主的な選挙で選ばれてきたからです。その神聖であるべき選挙に、ロシアの情報機関が介入したのですから、オバマは証拠を挙げて、ロシア側を批判すべきでした。しかし彼は、選挙期間中にその決断ができなかった――オバマ大統領はいずれ歴史の審判を受けざるを得ないでしょう。

池上:ロシアにしてやられ続けた、という経緯も含めて、アメリカ政府の対ロ強硬派は、「このやろう」とロシアとトランプに恨みを溜めて、メディアにリークする。メディアが書き立てると、大統領とメディアとの関係は悪化する。そういう負のスパイラルになっています。

手嶋:いまは北朝鮮の緊張が高まり、軍事的なオプションを検討し始めています。まさに選り抜かれたインテリジェンスが求められる時期に、アメリカ大統領と情報機関の間が険悪化している。これは危険なことと言わざるをえません。

トランプ氏のリップサービスの空虚さ

池上:トランプはインテリジェンスのプロたちに敬意を示さないし、自らも意識が低くて、何かといえばツイッターで状況をダダ漏れにする。フロリダで安倍首相とゴルフをやったときに、「安倍さんから『F35(最新鋭ステルス戦闘機)を安くしてくれてありがとう』と、感謝された」なんてツィートしちゃうわけですからね。安倍さんにしたら、二人だけの話だったのに、それを垂れ流されてしまうと、日本の首相も立場がなくなりますよね。

FBIとうまく行っていないトランプ大統領。海外を司るCIAとの関係はどうなっているのでしょうか。

池上:CIAとトランプの間柄も大統領選から最悪でしたよ。CIAは対ロシア強硬派の拠点みたいなところですから、トランプが選挙期間中に唱えていたロシアとの融和なんて、到底受け入れがたい。CIAが、「トランプはロシアに弱みを握られている」といった情報を流すと、今度はトランプが「我々はナチスの時代にいるのか」と、また激烈にやり返す。

それでも大統領就任の翌日には、CIAを公式訪問して、「あなたたちを100%支持する」と、リップサービスをしていましたよね。

池上:突然CIA本部を訪ねて、入り口に幹部を集めて絶賛したのですが、それも実はハズしているんですよ。

どうしてですか。

池上:CIA本部の入口には、殉職した人に敬意を示す黒い星が飾ってあります。諜報機関だから名前を明かすことができないので、星で表す。一つの星が一人の殉職者なわけです。

手嶋:「国家のために命をかけた人々の名誉とともに」といった碑文が掲げられていてね。CIAにとっては極めて重要な精神の中枢。

池上:その殉職者たちの星を前にしながら、トランプはろくに敬意も払わないまま、「いかにして自分が大統領選で勝ったか」の自慢話をぶってしまいました。