メディアに機密情報をリークしたのは誰なんですか。

池上:普通に考えればFBIでしょうね。FBIが駐米ロシア大使の電話を盗聴しているということは、これはいわば公然の秘密ですから。

 しかし、いくら公然の秘密とはいえ、ロシアに対して「オレたちはお前のところの電話を盗聴しているぜ」と暴露するような振る舞いは、建前としてやってはいけないことです。
 ところが今回、彼らはその禁忌を破り、明らかに盗聴していることを認める形で、フリンとロシアとの接触をメディアにリークした。ということは、トランプをそこまで危険視する人たちが、大統領の目と耳である機関の中にいることを意味しています。

手嶋:アメリカ政府の情報機関が関与していたことは間違いありません。フリンといえば、昨年の11月18日に、安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーにトランプを訪ねました。この日にトランプ次期大統領は、大統領補佐官にフリンを起用し、「我がホワイトハウスの外交・安全保障はこの人が取り仕切る」と、安倍首相に紹介しました。

池上:このときは当然、トランプはまだ大統領に就任していません。これも建前になりますが、次期大統領が政権の座に就く前に、外交、安全保障に触るやり取りをすることは、これまでになかった。あり得ない行為です。

手嶋:ええ、あくまで建前ですが、そのとおりです。アメリカの情報機関は、電話やメールの傍受に手を染めていることは公然の秘密でしたが、その情報をプレスにリークするなど、ぼくらもほとんど聞いたことがない。まさしく異例の事態です。

池上:あきらかに政権中枢に、「トランプが大統領では大変なことになる」と思っている人たちがいるということですよね。だいたい、トランプは大統領選挙の最中に、ヒラリーの私用メール問題でFBIの対応を相当、攻撃しています。ツイッターでFBIのことを、あれだけあしざまに言っていたら、自分がいざ大統領になったとき、内部からの信頼を得るのは難しくなります。

 それなのに当選後も、ホワイトハウスの重要な日課であるインテリジェンスのブリーフィングを、「そんなのは時間のムダだから、週に一度か二度でいい」と切り捨てた。あれでは大統領に対する忠誠心、モラルは落ちますよね。

前大統領オバマの「罪と罰」

手嶋:そう、落ちてしまいます。そして国家を率いていく目と耳を自ら閉ざしていると言わざるをえません。その一方で、ぼくはトランプ当選を、なす術もなく見ていたオバマ大統領の犯した「罪と罰」はもっと問題にされてもいいと思います。

「オバマの罪と罰」とは、どういうことなのでしょうか。

手嶋:すべては選挙期間中から始まっていました。ロシアのGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がサイバースペースを通じて、選挙戦最中に民主党と共和党の中核にまで侵入していた。これはまぎれもない事実です。オバマ大統領は選挙期間中も毎日、インテリジェンスのブリーフィングを受けていたのですから、当然、ロシア関連の情報も受け取っていました。ならば、神聖であるべきアメリカの大統領選挙に、外国の情報機関が介入し、トランプ陣営を援護していることを、なぜ明らかにしなかったのでしょう。この件は、選挙の公正などという建前にこだわった、オバマ大統領という杓子定規な秀才の限界を露わにしてしまいました。

池上:トランプが次期大統領に決まった後にオバマは、ロシアのハッキングが大統領選の結果に影響を与えたと問題視して、国家情報長官に調査報告の取りまとめを命じましたよね。

手嶋:オバマは17年1月に25枚のペーパーを発表させました。ところが、この報告書には、大統領選で実際にロシアの介入があったエビデンス(証拠)が示されていないのです。「ロシアには先進的なサイバー攻撃体制がある」「ロシアはアメリカ政府、軍、外交など各方面で脅威となるサイバー空間の行為主体になっている」といった表現にとどまっています。

池上:それらは、当たり前のことですよね。