小田嶋:ああ、ある種の交渉術なんでしょうね。でも、今やアメリカ大統領だからなあ。

 アメリカ大統領って、日本にとっては特別な人ですよね。ブレグジットとか、フランスでル・ペンが、とか、フィリピンにこんなやつが現れたよとか、いろいろなことがあるじゃないですか。それらは我々日本人にとってはだいたい他人ごとなんです。対岸の火事なんです。でもアメリカだけはそうはいかないですよね。

渡辺:いかないですね。

小田嶋:うかうかすると日本の首相が誰になるかよりもでかい。気分としては、そうだな、親会社の社長が交代した、みたいな。

親会社の社長は、有能なヒラリーよりトランプがいい?

渡辺:それ、正しいと思います。安倍さんを嫌いな人は、彼のすべての行動を批判するようですが、日本の立場を考えたら、ほかに方法はないでしょう。アメリカを代表しているトランプと真っ向から喧嘩をしても得るものは何もない。それより、この状況をうまく利用する方法を考えたほうがいい。そこが肝心です。だから賢くならなきゃいけない。お友達のふりをして、利用しなくちゃいけないんです。

小田嶋:親会社の社長にもいろいろあるけれど、トランプって典型的なワンマン社長ですよね。ビジネスはそれでいいというか、それでできる取引があるけど、政治ってギブ&テイクで、テイクだけしたら間違いなく破綻する。そういう取引まで彼ができるのかと。

渡辺:いや、彼はできないと思うんですよね。ですから、言いようですけれど日本にとってはチャンスでもありますよ。

小田嶋:そうか、もしヒラリーが相手だったら…。

渡辺:ヒラリーは百戦錬磨で、誰よりも勉強をする人。そのヒラリーに対して、安倍さんが日本に有利な取引を行うのは、難しかったでしょうね。長期的には、日本にとっても世界にとってもヒラリーのほうが良い選択だったと思いますけれど、短期的には脇が甘いトランプのほうが扱いやすい。

 日本の場合、安倍さんがどうであっても、スタッフ、役人が賢い。ところが、トランプは周りにそんなに切れ者を入れていない印象です。だから、案外勝ち目があるかもしれない。

共和党に不穏な動き

小田嶋:なるほど。ちなみに議会はどうですか。共和党はいま、トランプを御輿に担いで。

渡辺:ええ、現在、議会の共和党は彼に乗っかっているわけですよね。でもトランプを愛しているわけじゃないわけです。ただ、これまで党として押したかったイシューというものがあるわけですよね。オバマの元で「リベラルに押されてきた」という被害者意識みたいなものがすごくありまして。例えば同性結婚なんかでもそうですし、そういう部分で。

小田嶋:トランプに乗っかっていろいろなものを全部ひっくり返していこうという。

渡辺:そうなんです。彼らにとっては、ものすごいチャンスですよ。大統領は共和党で、議会は両方とも共和党ですから。最高裁も5対4で押さえてしまえば全部右寄りになってしまう。共和党のみんなが黙り込んでいるのには、そんなわけがあります。彼のことを嫌いな共和党員はたくさんいるんですけれどもね。

 ただしロシアの問題が出てきたので、これは共和党の中から叛旗が翻る可能性が高くなってきているんです。「ロシアとあんなに密着していていいのか」と、すごいもやもやしたものを抱えている人が共和党にも沢山います。でも自分が選挙に再選されるまでは黙っていよう、という弱虫ばかり。

小田嶋:ジョン・マケインは最近ずいぶん発言が増えてますよね。

渡辺:さっきの「だんまり」の代表がジョン・マケインでした。マケインは、もとは党の方針に逆らって言いたいことを言うタイプで、「マーベリック」とあだ名されたくらい。トランプのことも非常に嫌っているのですが、今回の選挙が危うかったので、選挙中は言いたいことを言えなかった。でも、無事再選したのであと6年安泰。同じくトランプ嫌いのリンジー・グラハム上院議員とあわせて、これからの動きが楽しみな共和党員です。

(後編に続きます。明日掲載予定です)