小田嶋:こう言う手はヒラリーさんは。

渡辺:規模が小さい政治集会は沢山していましたし、彼女にも熱烈なファンがいるのですが、トランプのような庶民感覚はない人です。ニューハンプシャーもよく訪れていましたが、都市部のみです。

 繰り返しになりますけれど、トランプのすごいところは、自分がどこに行ったら受けるのか理解していたことです。そして、「選挙はこうやって戦うべきですよ」と進言する戦略のプロの意見に耳を傾けず、自分が行きたいところにどんどん行った。たとえどんな田舎でも、何時間もかけて来る人がいるわけです。アメリカは車社会ですから、駐車するスペースがあるので、広域の田舎の有権者を集められる。都市でのラリーはそれができませんよね。この点でも、トランプはマーケティングの天才です。

小田嶋:なるほどね。そういう人たちは、いままで大統領選に投票すること自体がなかった。だから、プロたちからは、まるで空気から票を呼び出したみたいに見えた。トランプ手品ですね。

渡辺:それに、演説も高学歴ではない庶民にとっては分かりやすい。聴衆が「これを聞きたい」と思っていることを察知して、分かりやすい言葉で過激に煽るのもうまかった。

トランプの演説は第三文型まで?

小田嶋:話の内容もそうなんでしょうけど、英語も非常に分かりやすいですよね? 私の英語力だと、オバマさんの、たとえば最後の演説は3割ぐらいしか分からないんです。構文が難しかったり、知らない単語が出てきたりと。ところが、トランプのはほぼ聴き取れるんです。それで、「あ、俺が全部聴き取れるということは、これは…」と。

渡辺:そうです。ネイティブでなくても十分理解できる。でもそれは、かみ砕いた言葉を丁寧に使っている、ということではまったくなくって。

小田嶋:ですよね。あれはアジアのスーベニアショップの売り子の子供の英語みたいだなと思った。文法どうでもいい、難しい言葉はほぼ、ない。ちなみに私の英語って、トラブルが起こるとまるで通じなくなるレベルでして。空港で「オーバーブッキングで席がないぞ」というときに空港の人に文句を言いに行くと、相手が返す言葉がほとんど分からない(笑)。だけど、「これを買いたいんだけど」とかいう話になると痛快に通じるわけです。そういう英語力の人間にとって、オバマさんの演説は格調が高すぎて分からない。一方、トランプの演説は分かる。だから、あえて知性を感じさせない、インテリっぽい言い回しを絶対しないというポリシーがあるんでしょうね。

渡辺:いや、私がずっと現地で見てきた限り、ポリシーがというか、そういうことじゃないと思います。普段から、ああいう言い方しかしない人なんです。いやいや、本当にそうなんですよ。米国の小学校3年生レベルの英語での演説です。

小田嶋:「ベリー・バッド」とか言いますよね。

渡辺:演説しているときに数えたんですけれども、1フレーズがだいたい2語から5語で終わるんですよね。「シー・イズ・ア・ピッグ(彼女はブタだ)」とかね。

小田嶋:単語数が少なくて、俺でも理解できるってことは、第一文型、第二文型、第三文型あたりが多くて、SVCCとかSVOCとかはめったに使わないんだろうな。