
渡辺由佳里(以下渡辺):初めまして、小田嶋さんのコラム、いつも楽しみにしています。ご著書の『ザ・コラム』もすごく面白かったです。でも、電車の中で読むと、危ない本ですよね。つい笑ってしまって、変な人だと思われちゃいますから。
小田嶋隆(以下小田嶋):恐縮です。渡辺さんが書かれた『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』は、共和党、民主党の成り立ちから変遷、大統領選挙の仕組みに、トランプ、ヒラリー、サンダースなど、各候補者と支持者の具体的なプロフィールなど、今読み直すといろいろと腑に落ちて、これから先のアメリカの国情もいろいろ見えてきて、とても面白かったです。
渡辺:ありがとうございます。
なぜプロたちの予想が外れたのか
小田嶋:ただ、いまだに不思議なのは、日本にいる僕らがトランプの勝利を読めなかったのはともかく、アメリカの選挙戦のプロたちまでが見えてなかったことです。何でなんですかね。

渡辺:私もそれについていろいろな方と意見交換したんですが、結局、データというのは「これまでにあるもの」なんですよね。過去に蓄積したデータと、人口動態とを合わせて、「この人口動態で世論調査がこの数字ならばこういう結果になるだろう」と予測するわけですけれども、今回トランプに投票した人には「これまで1回も投票したことがない」という人が多いのです。だからその人たちは、データに出てこないんですよ。
小田嶋:ああ、これまで選挙戦には「存在しなかった」人なんですね。
渡辺:そうです。これまで政治に全然興味がなかった。トランプがそれを引っ張り出した。
従来の選挙戦は、やっぱりコストエフィシェンシーがあるので、都会の、一度でたくさん人が集まる場所に、ピンポイントでラリー、遊説をするわけです。これは仮説ですけれど、トランプはリアリティーテレビ番組の「アプレンティス」で身に付けた、視聴率に対する高い感度がある。「何をすれば視聴率が上がるのか」ということを身をもって知っているので、どこで遊説すれば受けるのか、これまでの選挙のプロたちの常識にとらわれずに自分で決めた。彼が行ったのは例えばニューハンプシャーの、それもすごい田舎なんですよ。私も何度も行きました。
小田嶋:本にありましたけど、彼のラリーは音楽がガンガンかかって、ロックショーか移動遊園地みたいな、エンタメ的なものだそうですね。なぜかというと「大衆は、国家予算や外交政策の詳細なんか興味ない」からと。とても印象的でした。
渡辺:そうなんです。賑やかなものはなにもない村にテレビでしか観たことのない有名人が来て「お前たちのチャンピオンになってやる」と言ってくれるんですから、もちろん盛り上がります。ファンと握手してくれるし、写真も一緒に撮ってくれます。現地に行くと、家の前庭にある看板は、トランプ、トランプ、トランプなんです。
“見捨てられた”人を掘り当てたトランプと角栄
小田嶋:何か田中角栄の逸話を聞くような。
渡辺:いや、そうなんですよ。
小田嶋:田中角栄に関しては、選挙のときに、大都市の人が集まりそうなところじゃなくて、農道とかをくまなく回って、必ず握手をする、といった、伝説みたいな話がたくさん伝わっていますね。
渡辺:「ここで田中角栄と会うとは思っていなかった」みたいな意外感も演出のうちなんでしょうね。
小田嶋:そうしたら、入れたくなるのも人情で。
渡辺:人々が「自分たちは見捨てられている」と感じている場所に、トランプが一座を率いて賑々しくやってきて、ホットドッグを食べさせてグッズを売って、景気よく「みんなが苦しいのはワシントンの政治家どものせいだ」と一緒になって怒ってくれ、「君たちのせいじゃない」と慰めてくれたら、そりゃあ、うれしくないはずがない。グッズは別として基本的に参加はタダですし。
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