「イノベーションとは競争することではなく競争をなくすこと」と説いたドラッカー。では、人の居場所を見つけることがイノベーションなのではないか。そんな問題意識から、ドラッカーが小説形式で学べる『もしドラ』の続編を執筆した岩崎夏海氏。ドラッカーの後継者とも言われるコリンズに何度もインタビューし、ドラッカーの自伝執筆にも協力したジャーナリストの牧野洋氏とともに語っていただいた。
(前回から読む)
牧野:『もしイノ』では、野球部の伝統的な文化をイノベーションに引っ掛けながら否定しているような感じでもありますよね。体育会系にありがちな、上からの命令で何も考えさせず、命令に従うだけで練習するような文化を完全に否定している。みんな個人で自主的に考えなさい、というお話ですから。
岩崎:それは壊したいという気持ちがありましたね。本の中に出てくる「野球部を民営化する」というのは、そのための一つのアイデアなんです。自分でも非常にキャッチーなコピーだと思います。
牧野:『もしイノ』の中に、元巨人の桑田投手のエピソードが出てきましたね。桑田投手の本は僕も読みましたが、彼は自分で考えながら野球をやるお手本です。そういう人も増えているのかもしれませんね。
「おにぎりマネージャー批判」は職業差別?

1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。2009年12月、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)を著し、ベストセラーに。(写真:大槻純一、以下同)
岩崎:『もしドラ』を書いてから、野球の現場に行くことが増えてきていますが、高校野球も苦しんでいるというか、矛盾がいろいろと突きつけられている状況です。この中でも書きましたが、一昨年「おにぎりマネージャー」という問題が起きました。ある野球部の女子マネージャーが選手のためにおにぎりを2万個も握ったのですが、それがつまらない雑用で差別的だとか、ブラック企業的だと批判されたのです。
僕はある新聞の取材に対して、これは男女差別の前に職業差別であると答えたんですね。おにぎりを握ることがどうして卑しい仕事なんだと。でも、こうやって批判を受けてしまうところに、高校野球の抱える矛盾があると思います。おにぎりを握る仕事だって、やり方によってはものすごく尊い仕事になるはずなんです。
牧野:『もしイノ』に、「トム・ソーヤーのペンキ塗り」という説得のテクニックが出てきますね。人は、誰かに勧められたり説得されたりしても、なかなかしたいとは思わない。でも、誰かがそれを楽しそうにしているのを見て、しかもそれが禁止されると、どうしてもしたくなってしまう。おにぎりを握る仕事だって、楽しそうにやっていれば人々の印象がぜんぜん違ってくるんじゃないかと思います。
岩崎:そうなんですよ。もともと考えていた高校野球についての問題意識と、イノベーションが僕の中でリンクして、『もしイノ』に結びついたという感じですね。

岩崎さんの問題意識が『もしイノ』に反映されているわけですね。『もしイノ』では“居場所”が大きなテーマになっています。これも岩崎さんが常々考えていたテーマなのでしょうか?
岩崎:仕事がなくなったり、居場所がなくなったりすることは、大人にとっても子どもにとっても、すごく不幸なことだし、社会問題だと思っています。だから、それを解決するのは僕にとって非常に重要なテーマです。居場所をつくることとドラッカーのイノベーションを絡めることは、以前からずっと考えていました。
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