岩崎:コリンズはドラッカーに人生を変えられたんでしょうね。牧野さんも、ドラッカーに人生を変えられた一人じゃないですか?

牧野:変えられましたよ。出会った当時はそんなことまったく考えられなかったですけどね。僕がドラッカーにインタビューした後、クレアモントに家族で移住して、妻がドラッカースクールに留学して「ドリス・ドラッカー奨学金制度」の第1号になり、家族ぐるみのお付き合いが始まって……。

岩崎:僕もそういう意味では、ドラッカーに人生を変えられた一人です。『もしドラ』が多くの人に受け入れていただいて、いろいろな輪が広がっていった。ドラッカー本人にはお会いすることはできませんでしたが、深く入れば入るほど面白い世界が広がっているんですね。

 ドラッカーは何よりその人生が面白い。「ドラッカーの本はどれから読めばいいですか?」と聞かれることがありますが、そのとき必ず勧めるのが、牧野さんが日経新聞の「私の履歴書」を通じてかかわった『ドラッカー自伝』と、『傍観者の時代』というドラッカーが書いた自伝の2冊なんです。

牧野洋(まきの・よう)
日本経済新聞ニューヨーク駐在、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経てフリーランス。著書に『最強の投資家バフェット』『不思議の国のM&A』『官報複合体』『米ハフィントン・ポストの衝撃』、訳書に『ランド』『市場の変相』『ビジョナリー・カンパニー4』など。記者時代にドラッカーとコリンズに何度もインタビューし、『知の巨人 ドラッカー自伝』を担当した。

牧野:おっしゃるとおりですね。私も「私の履歴書」を担当したとき、いろいろ読んで一番面白かったのが『傍観者の時代』でした。

岩崎:そうなんですよ! 『もしドラ』を書いていたときは、『私の履歴書』を読んでいなかったから、実はドラッカーがどういう人物かということをまったく知りませんでした。その後、ドラッカーという人物の歴史を知ることが面白くてのめりこんでしまったんです。

 ドラッカーは世界恐慌や第二次世界大戦などを現場で体験しています。ユダヤ系オーストリア人ですが、ナチスの勃興に直面してアメリカに移住していますし、初めての著書『経済人の終わり――新全体主義の研究』では、まだ勢力を拡大する前のナチスの隆盛からその滅亡に至るまでをも予言しています。そんな地獄の体験からマネジメントを考え出した。また、マネジメントの先のイノベーションというものが必要だと考えていた。そのドラッカーの歴史と考えの経緯みたいなものが面白いと思ったんです。

「不適切な人材」はバスから降ろすべきか?

人間主義といえば、『もしイノ』の中に、コリンズが『ビジョナリー・カンパニー2』で述べている「人材は最重要の資産ではない。適切な人材こそがもっとも重要な資産」という部分が登場します。つまり、「不適切な人材はバスから降ろすべきだ」という主張で、『もしイノ』の登場人物たちがそれにショックを受けるシーンがあります。これはドラッカーの「人こそ最大の資産」という考え方を覆すものです。

岩崎:コリンズと会った機会に、そのことについて質問してみたんですよ。つまり、本当に不適切な人材をバスから降ろしてしまっていいのかと。バスというのは企業や組織の比喩で、「バスから降ろす」というのは、やめてもらうということですよね。

牧野:コリンズの答えにすごく興味があります。

岩崎:コリンズは、「その人にはまた別の乗るバスがあるんだ」と言っていました。その人にとってはそのバスは適切じゃない。また乗るべきバスがあるから、降ろしたほうがその人のためになるということを言うんです。