岩崎:野球というものは、非常にマネジメンタルなスポーツなんです。これはいろんなところでお話ししていることなんですが、野球では監督のことを「マネージャー」と呼びますよね。でも他のスポーツだと、監督はほとんどが「ヘッドコーチ」なんです。ヘッドコーチは、コーチのトップですから、つまり教育者ですよね。一方、野球では、グラウンドにいる最高責任者がマネージャー。野球は監督が介在する役割が非常に大きいといえます。
牧野:なるほど。ところで、『もしイノ』はイノベーションがテーマですが、実話を元にした『マネーボール』でブラッド・ピットが演じていたビリー・ビーンがやっていたことは、まさにイノベーションですよね。
岩崎:そうです、そうです。
牧野:ビリー・ビーンは、それまでどのメジャー球団もまったくやっていなかった統計的な手法を持ち込んで既成概念を破壊してしまった。彼がGMを務めるオークランド・アスレチックスは20連勝したんですよ。『もしイノ』でも、主人公たちは先発ローテーションなどの高校野球に今まで導入されてなかった手法を持ち込んでいます。『もしイノ』を読んで、『マネーボール』でやっていたことはイノベーションだったんだ、ということを再発見しました。
イノベーションはすぐに真似される
岩崎:『もしイノ』を書くとき、『マネーボール』も非常に参考になりました。野球でも長年経験を積み重ねていくと、どうしても「常識」ができてしまうんです。ただ、人間の常識とか人間が合理的だと思いこんでいるものの中には、案外非合理だったり不条理だったりするものが多かったりします。近年はその常識を統計学的にデータで洗い直すことが増えてきました。たとえば、出塁率というすごく地味な指標が、客観的に見ると勝敗に大きな影響を及ぼしていることがわかった。そうやって野球もどんどん改革されているんです。
牧野:ええ、ええ。

岩崎:『もしイノ』を書いているとき、何が一番苦労したかというと、野球の常識を打ち破るアイデアを考えることでした。先ほど牧野さんがおっしゃった、高校野球での先発ローテーション制度もなかなか出て来なかったんですよ。
牧野:書きながら見つけていった感じですか?
岩崎:そうですね。この作品は最初から最後までスラスラ書けたわけじゃなくて、それこそ一年半ぐらいかけて、つっかえながら書いていたんです。中でも苦労した先発ローテーション制度について指摘していただいたのは、本当に嬉しいです。
牧野:本の中にはほかにもイノベーティブなアイデアがありますが、ネタバレになってしまうのでここでは話しません(笑)。『マネーボール』では、オークランドの手法を真似するチームがその後いっぱい出てきたらしいですけど、『もしイノ』をきっかけに高校野球でも新しいことを試みるチームが出てきたら面白いですね。
岩崎:ありがとうございます。現実にはなかなか難しいかもしれませんが、高校野球の常識を創造的に破壊していければいいですよね。
(構成:大山くまお)
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