中国は、イランとサウジの外交正常化を仲介し、中東地域で経済面以外でも役割を担う意欲を見せる。米国が関与を弱めたのを受けて中国が入り込むとの見方があるが、中国は米国の単純な代わりにはなれない。中国は、中東の国々と米国との関係がリスクになるとの懸念から中東政策を見直しているのかもしれない。

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月13日、北京で開催された形ばかりの議会の演説で、中国は「世界の統治」に「積極的に参画し」「世界平和にさらなる安定と前向きなエネルギーを加える」べきだ、と意気揚々と語った。その数日前に中国は、イランとサウジアラビアの外交正常化を仲介したばかりだった。

 イラン、サウジ両国政府は、約7年にわたり外交関係を断絶していた。習氏は外交を回復するよう両国を説得し、成功したのだ。中東諸国や米国政府は、この展開に意表を突かれた。

中央は、中国外交トップに就いた王毅氏(写真=AFP/アフロ)
中央は、中国外交トップに就いた王毅氏(写真=AFP/アフロ)

 そればかりでなく、外交におけるこの急転換は、ある重要な事実を明らかにしたとも言える。中東を支配する強国としての米国の限界と、中国が潜在的に抱く意欲についてだ。中国は、かつて米国がしていたように、この地域でより大きな政治的役割を担い、和平協定を仲介し、安全保障の枠組みを構築しようとしているものと思われる。

 中国国内の専門家は、今回のイランとサウジの緊張緩和は転機になり得ると考える。上海外国語大学中東研究所の范鴻達教授は、イランとサウジの合意が円滑に実施に移されるなら、中東は「中国への期待を高める。中国は、その期待に応じることができると自信を深める」と指摘する。イランとサウジの合意には、経済面、安全保障面での2国間協定の再開も含まれる。

 中国のこうした野心は、大きな変化の表れと考えられる。中国政府はこれまで中東で、主に経済面でのパートナーとして振る舞ってきた。30年前、中国は中東からの石油輸出の3%を占めるにすぎなかったが、今では30%を超える。イラン、サウジ両国にとり、中国は最大の原油輸出先だ。

 このため中国は、貿易相手国(サウジにとっては最大の相手国)として、また投資国として、中東できわめて大きな影響力を持つに至った。加えて中国は、イランと良好な関係を築いている数少ない大国の一つだ。米国は1980年以降、イランとの国交を断絶している。

 習氏は2022年12月に、サウジの首都リヤドで開かれたアラブ諸国の首脳会議に出席。23年2月には、イランのイブラヒム・ライシ大統領を北京に招いた。

 范教授は「中東諸国は、中国が経済面以外でも積極的に関わりを持ち、安全保障問題の解決に寄与してくれるに違いないとの期待を高めている」と指摘する。

 しかし西側では、中国政府の外交的野心の拡大は何より、中東における米国の優位性への挑戦であるとみる者が多いはずだ。

単に米国の代わりではない

 今回、イランとサウジが外交関係を正常化する背景には、サウジとジョー・バイデン米政権とのぎくしゃくした関係がある。湾岸諸国の間には、歴史的なパートナーである米国が中東との関わりを弱めているとの見方がある。

 サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、米国との結びつきと、中国をはじめとするアジア諸国との間で拡大する関係とのバランスを取るべく、積極的な外交政策を推進する。

 アジアに駐在するある米国外交官は、中国政府は、過去数十年にわたり中東に向けられてきた米国政府の外交・安全保障政策の焦点がインド太平洋地域に移ってきたことを利用しようとしていると指摘する。「中国は明らかに、我々が後退した後に隙間ができると考え、そこに入り込もうとしているのだ」

 この見方は、バイデン大統領が22年7月にサウジを訪問した際に語った「我々は去りはしないし、力の空白を残して中国やロシアやイランに入り込ませることもしない」という発言を思い出させる。