全米の各州が、税控除や補助金などの優遇措置を相次いで打ち出し、EVや電池の工場誘致を争っている。米バイデン政権の新しい産業政策の柱となる「インフレ抑制法」も、EV関連投資を進める追い風となっている。損失を被ることがないよう、各州は条件面などで工夫をこらすが、全体で見ると、生産能力は過剰な状態となりそうだ。

 米ジョージア州アトランタから車で東へ1時間。州間高速道路を降りると、絵はがきのような田舎の風景が広がる。道路脇には松並木。カントリー風の家や教会が並ぶ。

 やがて突然、広大な開けた土地が目に飛び込んでくる。黄色いトラックが地ならしの土を運び、敷地の周囲には太い送電線が走る。

 投資家たちは、目には見えないこの土地の魅力に引き付けられている。それは、州による企業誘致のための税控除や直接的な補助金など、総額15億ドル(約2000億円)にも及ぶ優遇措置だ。ジョージア州は、カリフォルニア州に拠点を置く新興電気自動車(EV)企業、リビアン・オートモーティブの新工場建設に向けて、2022年5月、この計画を発表した。同社はEVのトラックや多目的スポーツ車(SUV)を製造する。

 この補助金額は、同州が一企業に投じる額としては過去最高だった。だが、記録はすぐに破られた。2カ月後の7月、ジョージア州は韓国の現代自動車のEV工場に、18億ドル(約2400億円)という、リビアンを上回る額の優遇措置を約束したのだ。

 EV業界向けの補助金は、全米各州で次々と用意されている。ミシガン州は2月13日、米自動車大手フォード・モーターの電池工場のために10億ドル(約1360億円)を超える誘致予算を承認した。一方、オハイオ州の民間の経済開発機関は2月8日、ホンダが合弁で立ち上げたEV用電池生産会社に2億4000万ドル(約330億円)近くを供与すると表明。22年だけでカンザス州、ミシガン州、ノースカロライナ州で10億ドルを超える補助金のプロジェクトが合意に達している。

フォードはミシガン州に電池工場を建設する(写真=AP/アフロ)
フォードはミシガン州に電池工場を建設する(写真=AP/アフロ)

 EV産業で米国が急速に競争力を高め、脅威となりつつあることに、世界は懸念を深める。米国で投資が活発化する背景にあるのが、米国産の部品を一定割合調達すれば、税額控除を受けられるというルールだ。米政府はこれに多くの予算を投入する。

 そして米国内でも、各州が投資を引き寄せようと激しい競争を繰り広げる。「適切な誘致策をとらなければ、プロジェクトは他州に行ってしまう」と、ジョージア州経済開発局の広報担当者は語る。

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