英国のEU離脱で懸案として残っていた北アイルランドの国境管理問題をめぐり、解決に向けた合意がまとまった。表面的には双方の面目が立つ内容だったが、離脱交渉全体で見ると、最終的に目的を果たしたのはEU側だった。英離脱派が望んでいた成果は得られなかった一方、EUは、離脱が利益にならないことを加盟国に印象付けられた。

 昔から欧州の近隣諸国を怒らせるのは、英国の「得意技」だった。欧州連合(EU)から正式に離脱した2020年も、英国は火に油を注ぐ新手法に踏み切った。ロンドンに駐在するEU代表の外交官に、完全な大使としての待遇をやめると言い出したのだ。

 EUは国ではないものの、慣例としてその代表は大使として遇されてきた。だが英国は、EUを一つの国際組織と見なし、使節の扱いを格下げした(この措置はEUからの反撃に遭い、後に取り下げられている)。

 このエピソードを踏まえると、2月末にあった出来事は大きな変化といえる。英国を訪れた欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、ウィンザー城に招かれ、英国王チャールズ3世と会談した。

英国王と会談したフォンデアライエン委員長(右)(写真=ロイター)
英国王と会談したフォンデアライエン委員長(右)(写真=ロイター)

 過去のEUに対する侮辱的な扱いとは正反対の振る舞いだ。EUの代表を「選挙で選ばれていない官僚」と皮肉ってきたタブロイド紙と違って、今回、王室の広報官は同委員長を、国王と午後のお茶を楽しむにふさわしい「世界の指導者の一人」と呼んだ。

 英国王との会談はフォンデアライエン委員長にとって、画期的といわれた英国訪問の総仕上げでもあった。

 2月27日、同委員長は英国のリシ・スナク首相と、北アイルランドの国境管理の扱いについて合意した。北アイルランドの問題は、英国のEU完全離脱というパズルを完成させるための「最難題」だった。

 この地域は、基本的に英領の一部であったものの、通商上はEUの単一市場内にとどまらなければならない理由があった。そうしなければ、(編集部注:EU加盟国だが、物理的な国境を設けない前提となっている)隣国アイルランドとの間に、厄介な国境管理設備を設けざるを得なくなる。

 今回、複雑な取り決めによって、この問題が決着した。英国のEUからの離脱は、法的には20年に宣言されていたが、実際にどのような形となるか、この合意でその全貌がようやく明らかになったといえる。

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