中国の自動車会社、比亜迪(BYD)がEV販売台数で米テスラを抜き、世界の首位に躍り出ようとしている。BYDとトヨタには共通点が多い。自動車以外の製造から始まり、独特の生産方式で業績を急拡大させた。今後の焦点は米国市場だ。中国市場を失いたくない米自動車産業や、EVパートナーのトヨタの思惑がからむ。
自動車世界最大手、トヨタ自動車の豊田章男社長は1月26日、会社のかじ取りをナンバー2*の佐藤恒治氏に引き継ぐと発表した。この社長交代の理由を理解したければ、同社が2021年に発表した風変わりな動画を見るといいだろう。豊田氏と佐藤氏が、レクサス初の車載電池のみで駆動する電気自動車(EV)を運転している動画だ。
ハンドルを握る豊田氏は、最初は明らかにEVに対して少々懐疑的だ。少し重い感じがするとつぶやく。ところがアクセルを踏み込み、スピードが上がると、同氏は「フォー」と歓喜の雄たけびを上げる。まるで興奮しきったトップガンのパイロットのように。
見ている側は少々戸惑うが、この動画は的を射ている。トヨタはEVで出遅れた、と多くの者が考えているからだ。豊田氏は自分より13歳若い佐藤氏に社長職を譲る決断を通じて、もはや若い世代がEV時代に向けて加速すべき時であることを明確にした。豊田氏は会長に就任する。
豊田氏の社長退任に関するメディアの解説は、米テスラへの対応だとするものが多い。だが、それはあまりに欧米的な見方だ。テスラは確かにEVの世界最大手かもしれない。同社のイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)によれば、望遠鏡を使っても見えないほど遠くに2番手企業を引き離しているという。
BYDは「新たなトヨタ」

だがテスラは、台頭してきたある中国企業を見落としている。マスクCEOの大言壮語にもかかわらず、トヨタは間違いなく、この中国企業をテスラと同様に注視している。その企業とは、中国の比亜迪(BYD)だ。
BYDは23年にはテスラを抜き、ハイブリッド車を除く純粋なEVの販売台数で世界の首位に立つかもしれない(同社はハイブリッド車も生産する)。トヨタにとってBYDは中国でのEVパートナーであると同時に、国際的な競争相手になりつつある。
だがそれよりも重要なのは、BYDが、トヨタを数十年にわたり世界で最も成功した自動車会社たらしめてきた特徴の多くを見習っている点だ。
東アジアのこの2つの自動車会社は、似通った経歴を持つ。どちらも最初は自動車会社ではなかった。トヨタの前身は自動織機の製造会社だ。BYDは最初、携帯電話用の電池を製造していた。
自動車の生産を始めた後も、最初は両社とも世界の競合に大きく後れを取っていたため、他社とは違うやり方を考えた。トヨタは第2次世界大戦前、燃料にガソリンではなく木炭を使う研究をしている。BYDは電池の専門技術を生かし、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)に特化した。これらは中国では「新能源(エネルギー)車(NEV)」と呼ばれる。
両社とも国内で技術を磨き、海外に進出する際は、その市場があまり発展していない国から手を付けた。しかし、こうした慎重な車づくりは、すぐに本格的な事業へと発展した。トヨタ車の輸出台数は1955~61年の6年間で40倍以上に増え、以後、増加の一途をたどった。
一方のBYDも、最初の100万台のNEVを生産するのに13年かかったというが、次の100万台には1年で到達した。その半年後には300万台目に達している。同社が事業展開する国は数十カ国に上る。製造拠点は中国からブラジル、ハンガリー、インドなどに広がる。EVバスは米カリフォルニア州のモハベ砂漠で生産する。
BYDは、リチウムイオン電池の生産で、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)に次ぐ世界第2位だ。トラックやタクシーなどの商用車のほか、電子機器も製造する。こうした製品は世界展開の足掛かりになる。
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