スペインのある州で連立政権入りした極右政党が中絶を抑制する方策を提案し、政権内に対立を引き起こした。連立相手の中道右派・国民党はこの提案を拒否したが、この騒ぎは極右との連立がもたらす危険を浮き彫りにした。今年の総選挙で絶対多数を確保できるか微妙な国民党は、国政レベルで極右と協力するか、難しい選択を迫られる。

スペインの極右政党ボックスは、国内でコンセンサスを得ている中絶の権利に異議を唱え、中絶を抑制する方策を提案した。この動きは、極右政党が連立政権に加わった場合に生じる落とし穴について、2023年末に予定される総選挙を前に強く警鐘を鳴らすものとなった。
ボックスは、スペイン国内で唯一、カスティーリャ・イ・レオン州で州政府の連立政権に参加する。同党は1月12日、州内の医療機関に対し、中絶を望む女性に胎児の画像を見せ、心音を聞かせる機会を与えることを義務付ける方策を発表した。女性に中絶を断念させるためだ。発表後、非難の応酬が始まった。
カスティーリャ・イ・レオン州政府の副知事を務めるボックスのフアン・ガルシア・ガジャルド氏は、この方策の目的を、中絶するかどうかの判断に際して女性に「できる限りの情報」が確実に与えられるようにすることと語った。「中絶は女性に深い傷を残すため社会的な悲劇である」
この提案に対して、当人の意に反することを強要するものだとの非難が巻き起こり、同州連立政権内の保守系とも対立が生じた。結局、連立を組む中道右派の国民党は、この提案を認めなかった。
同州は首都マドリードの北方に位置する。国民党はスペインの国政における最大野党で、ペドロ・サンチェス現首相が率いる与党・社会労働党と対立する。
提案は実現しなかったとはいえ、この騒動は一つの可能性に人々の目を向けさせた。12月の総選挙で国民党が社会労働党を破ったとしても、国政の場でボックスと連立を組む必要が生じるかもしれない。またこの一件は、極右の過激な姿勢が何をもたらすかについて、厳しい教訓を残した。
ボックスの幹事長を務めるイグナシオ・ガリガ氏は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に対し次のように語った。「我が党は人口減少に苦しむ地域において家族支援政策を約束してきた。国民党にとって教訓は明らかなはずだ」
「国民党は選挙運動中のボックスの発言に注意深く耳を傾けるべきだ。なぜなら、我々は言ったことは実行するからだ。我々には非常に明確な原則がある。どんな状況でもその原則を捨てることはない」(同氏)
ガルシア・ガジャルド氏は、ハンガリーのオルバン政権が導入した、胎児の心音を聞かなければ中絶できないとする厳格な規制を高く評価してきた。また、ボックスの提案には、超音波画像の確認を中絶の条件とするという、米共和党が政権に就く州で見られる規制も取り込んでいる。ただし、米国各州の超音波条項は、連邦最高裁が22年に下した、州は中絶そのものを禁止できるとする歴史的判断に取って代わられた。
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