FTXの経営破綻を振り返ると、このリスクがなぜこれほど長く放置されていたのかという疑問が浮かぶ。その背景に、理解できないことに魔術的な理由付けをし、信念を脅かす矛盾に目をつむる人間の性向がある。この性向はどの分野にも見られ、すべてが悪いわけではないが、行き過ぎないよう留意することが必要だ。

FTXの破綻劇には人間が持つ性向が表れている(写真=AFP/アフロ)
FTXの破綻劇には人間が持つ性向が表れている(写真=AFP/アフロ)

 何カ月か前のことだ。カナダのトロントで開催されたある騒々しい技術系のカンファレンスで、暗号資産(仮想通貨)のエバンジェリストたちと話をする機会を得た。彼らは分散型金融(「DeFi、 ディーファイ」という呼び方を彼らは好む)の素晴らしさを夢中になって褒めたたえた。

 彼らはデジタル資産に心酔している様子で、上下の階層がないところが好ましいのだと強調した。ビットコインを使えば、誰であろうと銀行のような集権的な監視者に頼ることなく取引ができるのだから、と。

 通貨の取引所に問題はないのかと筆者は尋ねた。仮想通貨の多くは集権化された取引所というハブで取引されているではないか、と。経済社会学者のコライ・チャリスカン氏によれば、2021年に取引されたビットコインの90%以上が仮想通貨取引所に保管されていたという。

 DeFiは、分散化よりも、主流の金融以上の集権化をもたらしたように筆者の目には映る。実際、破綻した仮想通貨取引所FTXは単なる交換業者ではなく、自身も通貨を発行し、顧客の資産を保管し、米アラメダ・リサーチという投資会社と密接に関係していた。

 このような集権化は、DeFiの信条と矛盾するのではないか。だが、トロントで話した暗号資産支持者たちは矛盾を感じないらしく、筆者の疑問を軽く受け流した。

 筆者はその嫌みな対応にほほ笑みで応えたが、現状は笑って済ませられるものではない。11月にFTXが破綻して以降、なぜ顧客に甚大な被害が及んだのかが明らかになってきた。機能の集中が進んだ上に監督体制の不備が重なり、そこに資金が無責任に注ぎ込まれてきたためだった。

 英国の中央銀行であるイングランド銀行の副総裁、ジョン・カンリフ氏は11月21日の講演で次のように述べた。「多くのシステムの中心にある仮想通貨機関は、総じて規制のかからない領域にあり、リスクにきわめて陥りやすい。既存の金融部門に対する規制は、そのようなリスクを回避するよう設計されている」

 我々はFTX破綻の痕跡に目を凝らし、バランスシートに80億ドル(約1兆1000億円)もの穴がどのように開いたかだけでなく、このような危険な矛盾がなぜかくも長く放置されてきたかを問わねばならない。なぜ、これほど多くの人々が見落としていたのだろうか。

矛盾に目をつむる傾向

 答えの一つは、人類学者がしばしば指摘するように、人間は生まれつきマジカル思考をするようにできている、というものだ。つまり、理解できないことに神秘的な説明をつけてしまう。我々は、恐ろしく感じられる世界の中で、希望を必要とするのだ。

 デジタル化が進んでも、人間のそうした性向は変わらない。我々の大半にとり、サイバー空間の働きは、現実世界で出合うものと同じく不可解なものなのだ。