ウクライナ侵攻後、ロシアの独立系ジャーナリストたちは国外に活動拠点を移した。事実の報道を求める多くのロシア国民は、国外から発信される独立メディアをVPNなどを利用して視聴する。国外で活動するジャーナリストたちは、プーチン後のロシア政治を見据えている。

動員されたロシア兵。駅で別れを惜しむ(写真=ロイター)
動員されたロシア兵。駅で別れを惜しむ(写真=ロイター)

 ロシア政府は彼らの活動を禁じ、「外国の代理人」と呼び、犯罪者として国外に追放した。資金源を断ち、その言葉に耳を傾ける人々から切り離そうとした。しかし彼らは組織を立て直し、力を増してよみがえった。

 ロシアのジャーナリストたちがこれほど迫害されたことは、過去30年の間なかった。これほど激しく政府に反撃したこともだ。彼らはロシア政府の嘘を指摘し、腐敗を暴き、戦争犯罪の証拠を探し出した。

 ウラジーミル・プーチン大統領の独裁の下、街頭での抗議活動は限られる。しかし独立系の記者たちはバーチャルな活動を組織した。政府の戦争政策を批判する記事を書き、ニュースや意見を求める人々にそれを提供するのだ。彼らの多くはそうした活動をロシア国外で遂行し、「オフショア・ジャーナリズム」と呼ぶ。

 ロシアの調査報道サイト「プロエクト」によると、ウクライナ侵攻以降、少なくとも500人のジャーナリストがロシアを離れた。彼らは、ラトビアのリガ、ジョージアのトビリシ、リトアニアのビリニュス、ドイツのベルリン、オランダのアムステルダムなど欧州各地に散らばり、多くの読者や視聴者に向け発信を続けている。彼らの大半は40歳未満だ。リガに拠点を置くロシア語ニュースサイト「メドゥーザ」の編集長、イワン・コルパコフ氏は「現在の我々の仕事は、メディアを存続させ、読者を窒息させないことだ」と語る。

 メドゥーザは、ウクライナのブチャで市民の大量虐殺があったことや、異常に多くの囚人がプーチン大統領の盟友が出資する民間軍事会社ワグネルへの入隊を強要されていることなどを報じた。

 パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバー2人が立ち上げたニュースサイト「メディアゾーナ」は、ロシア軍の本当の戦死者数を突き止めようとしている。また、ロシア軍の徴兵数を推定する独創的な方法も編み出した。動員が始まって以降、急増した婚姻数についての入手可能なデータを分析したのだ(招集兵は結婚の届け出をすると、特例として即座に登録される。配偶者にいつ再び会えるか分からないため、この特例を利用する者は多い)。メディアゾーナは、既に50万人が動員されたと推定する。政府が発表した30万人よりもかなり多い数字だ。

VPN利用者数が世界一に

 ロシア政府にすれば、真実の報道を抑え込むことは、戦争遂行のために重要な施策だ。ロシア国内にも、情宣機関と化していない報道機関は、民間有力紙「コメルサント」を含めていくつか残っている。しかし規制は厳しい。例えば、この戦争を「戦争」と呼ぶことができない。プーチン大統領は侵攻開始後、独立系のメディアが市民に侵攻への疑念を抱かせたり、エリートの分裂を促したりしないよう、報道を圧殺してきた。

 ロシアの独立系テレビ局として最も有名な「ドーシチ(雨)」は、侵攻の8日後に放送を停止した。500万人のリスナーを擁していたラジオ局「モスクワのこだま」も、同じ日に沈黙した。政府に最も批判的だった独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」もほどなく発行を停止した。

 モスクワのこだまの制作局長だったアレクセイ・ベネディクトフ氏と、ノーバヤ・ガゼータの編集長でノーベル賞受賞者のドミトリー・ムラトフ氏はロシア国内にとどまるが、一部の同僚は国外での活動を組織した。ドーシチはラトビアを拠点にユーチューブで放送を再開。月間視聴者は2000万人に達する。その大半はロシア国内の居住者だ。モスクワのこだまはベルリンから、専用アプリとユーチューブを通じてニュースやトーク番組を生放送している。ロシア政府はこのアプリを無効化しようとしたができなかった。